監督たちの戦い オリックス森脇監督、準備・集中で勝負弱さ改善
スポーツライター 浜田昭八
オリックス・森脇浩司監督の口癖は「準備」と「集中」。それに「今やるべきことを、当たり前にやる」だ。試合前後の談話に頻繁に出てくる。ミーティングでも話の根幹は、これで貫いている。派手ではないが、同監督のぶれない姿勢が如実に示されている。
■うっとうしがられてもお構いなし
長期ペナントレースの間には、選手も首脳陣もつい惰性に陥ることがある。頻繁に対戦する相手でも、状態は日々に変わる。その姿を観察、分析し、戦う備えに怠りはないか。疲れや慣れが災いして、集中力を欠いていないか。そして、勝つための役目をしっかり把握しているか。
プロ生活を5年も送れば、監督のこんな話はうっとうしい。だが森脇はお構いなしだ。ダイエー(現ソフトバンク)のコーチ時代から終始一貫、これで通した。優勝を狙える位置にいる今は、これに「1ランク上の準備」や「より集中」などの、強調し、念を押す言葉が加わるようになった。
監督に昇格した昨季は打線が振るわず、5位に終わった。それも、終盤に大崩れして最下位に落ちた日本ハムに助けられた形だった。優勝は2005年に発足した楽天。オリックスは21世紀になって優勝のない、パ・リーグ唯一の球団になった。
■渋い球団が大補強、覚悟を迫られ
補強に渋い球団が、今季は大補強した。そっぽ向いてきたフリー外国人やFA選手の争奪に、積極的に参戦した。4番候補のペーニャ、捕手・山崎(ソフトバンク)、三塁・ヘルマン(西武)、ベテラン外野手の谷(巨人)、鉄平(楽天)を次々に獲得した。
さらにキャンプ前には、現役大リーガーでオジー・スミス2世といわれた内野手・ベタンコートを加えた。李大浩をソフトバンク、バルディリスをDeNAに取られたが、これで穴は埋まった。
ドラフトでは吉田一将(JR東日本)、東明大貴(富士重工)ら、即戦力の投手に狙いを定めて取った。「さあ、この戦力で戦え」と、森脇は覚悟を迫られたのだ。
言われるまでもなく、戦う意欲は十分だった。序盤でつまずいた前年の失敗を繰り返すまいと、慎重にスタート。4月初めに7連勝して勢いに乗った。金子、西、ディクソンの先発陣が足並みをそろえ、比嘉、馬原、佐藤達、平野佳の救援陣が接戦を締めた。
前年は宮内義彦オーナーに「1点差の試合をなんとかできないか」と苦言を寄せられるほど、接戦に弱かった。だが、今季は「1点をしぶとく取り、1点差を粘り強く守る」という展開を心掛け、勝負弱い体質は大幅に改善された。
■最強救援陣にやや綻びが気がかり
気がかりといえば、12球団の中でも最強といわれた救援陣に、このところ少し綻びが目立つようになったことだ。セットアッパー佐藤達の速球の威力が落ち気味で、制球ミスも多い。ストッパー平野佳は、セーブをマークした試合でもすんなりと逃げ切ることが少なくなった。"勤続疲労"だとすれば、早く手を打たねばならない。
森脇は「勝つために切り替えを迫られることはあるだろうが、耐えることも必要」と言い、投手陣の再編までは考えていない。ただ、夏場を乗り切るために、これまでフル稼働していない井川、東野、新人吉田一らの戦列復帰が待たれる。
攻撃陣は粒のそろったソフトバンクに比べて、やや見劣りする。だが、足を使ったキメ細かい攻撃で頑張っている。大きな誤算は期待のベタンコートがほとんど戦力にならず、足を痛めて治療のために帰国したことだ。
■頂点へ「挑戦者の姿勢貫いて進む」
来日当初から、太り気味の体を心配する声があった。グラブさばきには名人の趣があったが、フットワークは最盛期にほど遠く、打撃にもパワーが感じられなかった。そこで、球団はカージナルス傘下3Aから外野手バトラーを緊急補強した。28歳の若さに魅力を感じるが、救世主になる力を備えているかどうかはまだ分からない。
今後のペナント争いはソフトバンクとのマッチレースになると予想される。「ボクの采配を含めて、ウチに足りないものは多い。だが、挑戦者の姿勢を貫いて進む」と森脇。クライマックスシリーズ(CS)進出は確定的という声には耳を貸さず、あくまでも頂点を目指している。