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地元V狙うブラジル 調整順調も難しいピーク設定

サッカージャーナリスト 沢田啓明

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5月26日からリオデジャネイロ郊外のトレーニングセンターで調整を続けていたブラジル代表が、6月3日に中部ゴイアニアでパナマ代表と、6日にサンパウロでセルビア代表とワールドカップ(W杯)前最後の強化試合を行った。1次リーグの対戦国を想定して、前者が仮想メキシコ代表、後者が仮想クロアチア代表という見立てである。

ネイマール、左足故障の影響なし

パナマ戦では、CBチアゴシウバとボランチのパウリーニョが体調不十分のため欠場。序盤はミスが多かったが、27分、FWネイマールが自らのドリブル突破で獲得したゴール前のFKを強烈なカーブをかけてねじ込んで先制した。

40分、右SBダニエウ・アウベスがミドルシュートを突き刺すと、後半開始早々、CBダビドルイスからのロングパスをネイマールがゴールを背にして受け、ヒールでDFの間を抜く絶妙のスルーパス。走り込んだFWフッキが、左足アウトサイドで美しいカーブをかけて流し込んだ。さらに28分、ネイマールからのパスを受けた左SBマックスウェルがクロスを入れ、ゴール前でMFビリアンが押し込んで、4-0と快勝した。

ネイマールは、4月中旬に負った左足の故障の影響は全く感じられず、4点中3点に絡んだ。オスカルが退いてからはトップ下に入り、前後左右に動いて持ち前のスピード、テクニック、創造性を存分に発揮した。また、途中出場したビリアンが得意のドリブル突破でアクセントをつけた。

不安視されるCF、フレジが決勝点

セルビア戦はサンパウロFCの本拠地モルンビー・スタジアムで行われ、12日のクロアチア代表との開幕戦の先発が予想されるベストメンバーが登場。地下鉄ストと大雨による記録的な交通渋滞にもかかわらず、6万3000人を超える観衆がスタンドを埋めた。

ところが、前半、ブラジル選手にはW杯前特有の力みが見られて無得点。観衆はブーイングで不満を表明した。

それでも58分、チアゴシウバからのピンポイントのロングフィードを受けたCFフレジがDF2人に囲まれながら胸でコントロールし、DFと接触して倒れた状態でありながら右足で蹴り込んだ。

現在のチームは「CFとGKに不安がある」と言われ続けており、しかもスタンドからはサンパウロFC所属の"ご当地選手"ルイスファビアーノのコールが起きていただけに、手を耳に当てて「どうだ」というポーズ。会心の笑顔を見せた。

その後、ネイマールからのスルーパスを受けたフッキがゴールネットを揺らしたが、判定はオフサイド(ただし、これは明らかな誤審だった)。

「けがしたくない」気持ちひしひしと

守備陣は、両SBの背後をえぐられて危険なヘディングシュートを浴びた場面があったが、何とかしのいで無失点。1-0の辛勝だった。

パナマ戦ではチームがすでにW杯を迎える準備ができていることを示したが、セルビア戦は「W杯開幕を目前に控えて、けがをしたくない」という選手の気持ちがひしひしと感じられた。

CFファルカオ(コロンビア)、FWリベリ(フランス)、FWロイス(ドイツ)ら大物選手が故障のためW杯不参加を余儀なくされ、FWロナウド(ポルトガル)、FWスアレス(ウルグアイ)、CFイグアイン(アルゼンチン)らも故障で出場が危ぶまれている。その点、ブラジル代表には大きな故障を抱えている選手は一人もいない。

かつてJリーグで頭角を現して大出世したフッキが絶好調で、ネイマール、チアゴシウバとダビドルイスのCBコンビも準備万端。オスカル、パウリーニョがやや調子を落としているが、それぞれビリアン、フェルナンジーニョというハイレベルのバックアップ選手がいて、大きな不安はない。フレジも彼らしい泥臭いゴールを決めたし、GKジュリオセザールも安定したプレーを見せた。

開幕前の調整は極めて順調に進んだ、と考えていいだろう。

ベストの80%程度に仕上げ開幕戦か

ただし、一抹の不安もある。

W杯で優勝を狙う国は、通常、チームのピークが準々決勝あたりに来るように仕上げる。しかし、今度の大会では開催国として開幕戦で恥ずかしい試合はできないので、最初からベストの80%程度の状態には仕上げておかなければならない。いつもの大会よりピークを早くもってきて、肝心の準決勝や決勝で調子が下り坂にならないか、という懸念がある。その一方で、地元観衆からの絶大なサポートという"栄養剤"を期待できるのも確かなのだが……。

開催準備の遅れ、W杯反対デモ、便乗ストライキ、開催地の治安の悪化といった数々の問題を抱えながらも、世界中のサッカーファンが待ち望んできた4年に1度の巨大な祭典がいよいよ始まる。

各チーム、各選手が祖国の人々の熱い期待を担っているだけに、いつの大会でも胸が熱くなるような感動的な試合が繰り広げられる。この大会でも、サッカーの魅力を余すところなく伝えてくれるような好勝負をひとつでも多く見たい。また、ブラジルを訪れる各国のサポーターとメディア関係者が思う存分楽しみ、交歓し、良い思い出をたくさんつくって、無事に帰国してくれることを願っている。

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