「第6の男」五輪代表へ挑戦状 フィギュア・町田樹(上)
自らに挑戦状をたたき付けたという。6日に行われたフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルのフリー。ショートプログラム(SP)でミスを連発して最下位と出遅れた町田樹(関大)は「去年と同じ僕だったらソチ五輪に行く資格がない」と、腹をくくって臨んだ。
■日本男子唯一のGP2連勝
昨季のGPファイナルは初出場を果たすも最下位に沈んだ。続く全日本選手権は9位と惨敗。五輪がかかった今季は同じ轍(てつ)は踏めない。4回転2本を含むジャンプをまとめ、SP6位から4位へと順位を上げた。
「今季にかける思い、自分の成長を見てもらいたいという気持ちを全てぶつけた」
1年前よりも一回り大きくなった姿を示した23歳は、フリーの演技を終えると感極まって涙を浮かべた。
10月のGPシリーズ初戦スケートアメリカで、一躍その名をとどろかせた。鮮やかに4回転ジャンプを3本決める完璧な演技を披露し、歴代5位(当時)となる合計265.38点で圧勝。第6戦のロシア杯でも優勝し、日本男子唯一のGP2連勝を飾った。
実力者6人が3枠を争う日本男子のソチ五輪代表レース。「大穴」とみられていた「第6の男」が、一気に有力候補に浮上している。
■地味な練習で基礎磨き直す
ソチ五輪の代表切符をつかむため、強い覚悟を持って今季にかけている。今年初めに頭を丸めた。春には大学に復学し、拠点を米国から大阪に移した。昨年の全日本の惨敗を受け、「ゼロからスケートを立て直したかった」という。
毎朝6時から大阪のリンクの片隅で地味な練習を黙々とこなす。氷上を滑って決められた形の図形を、その通りに描いていく「コンパルソリー」。20年ほど前に廃止されたかつての重要種目で、現在は敬遠されているが、滑りの基礎を磨く鍛錬として効果的だ。
少しでも腰の位置がずれると、きれいなターンができずに図形に乱れが生じる。「どのように体を動かしたらエッジ(刃)に乗った正しいスケートができるのか、しっかりと考えるようになった」。失敗を繰り返しながら、正確なエッジワークを身につけた。
■定評ある表現力、技術と融合
今季は4回転ジャンプの成功率も格段に上がった。9月の某日。突然、腰の使い方にピンとひらめくものがあったらしい。「自分の体と対話し、自分の体に敏感になった」と町田。ジャンプの軸がしっかりと安定し、「自分の技が確立された」と実感している。
今春から指導するコーチの大西勝敬も「ジャンプだけでなく重心が低くなってスケートがよく滑るようになった」とスピンなどの向上にも目を細める。基礎から技術を磨き直して滑りの質が向上、定評のある表現力と融合し、総合力で戦えるスケーターとなった。
五輪代表最終選考会となる全日本選手権(埼玉)開幕まで5日。1年前までどこか現実味がなかったという五輪切符が、いま目の前にある。「生きるか死ぬかのような大会」。代表の座をつかみ取るため、町田は全身全霊をささげる。
(敬称略)
〔日本経済新聞夕刊12月16日掲載〕