Vの楽天、夏場に勢い 緑のユニホームで若手躍動
創設9年目にして初優勝をなし遂げた東北楽天イーグルス。優勝の原動力となったのは、開幕22連勝中のエース田中将大や、打線の中軸に座ったアンドリュー・ジョーンズとケーシー・マギーであることは間違いないが、星野仙一監督が抜てきした若手の活躍も大きかった。優勝に向かって勝ち星を積み重ねた夏場、若い芽の成長を象徴するような緑色のユニホームをまとった「星野チルドレン」がグラウンドで躍動した。
■試合前練習でワンバウンド打ち
8月15日のQVCマリンフィールド。千葉市内の最高気温33.4度という強烈な日差しの下で行われた楽天の試合前のフリー打撃練習で、目を疑うような光景に出くわした。
打撃投手がホームプレートの手前でワンバウンドする球を投げ、左打席に入った打者はそれを打ち返す。汗で投手の手が滑ったかと思ったが、何球も繰り返される。初めはタイミングをとることに苦しんでいた打者は、慣れるともにテニスのハーフボレーのように器用にバウンドした球を打ち返し始めた。
「目線を合わせるため」。練習を終え、ロッカーに引き上げて来たその打者、枡田慎太郎は汗だくのまま、意図を説明した。この日の相手ロッテの予告先発は下手投げの渡辺俊介。これまでの対戦で、地面すれすれでボールをリリースするサブマリンを「全然、打てていない」。どう対応すればいいかと頭をひねった結果が、下から浮き上がってくる球を想定して「初めてやってみた」というワンバウンド打ちだった。もちろん田代富雄打撃コーチの許可を得た上の練習だ。
■星野監督「考えてやればいい」
三塁側のベンチにどんと構えていた星野監督は、風変わりな練習を目の当たりにしても「考えてやればいい」と一言。プロ8年目、26歳になった若者の成長ぶりを楽しんでいるかのような視線を送っていた。"特訓"の成果だろうか、枡田は1、2打席は凡退したものの、3打席目に渡辺から中前打を放った。
本来は内野手だが、少々守備に難があるといわれてきた。センス抜群の打力を生かすために、今季は外野を守り、開幕では3番に起用された。調子が上がらず4月に2軍落ちし、2軍戦で死球を受けて右手甲を骨折するという不運にも見舞われたが、7月に1軍復帰してからは「前半戦打てなかった分、後半戦は頑張ってやろう」という気持ちで試合に臨んだという。8月には15試合連続安打も記録し、試合を決める場面での勝負強さも目立った。
枡田と同学年、同期入団で、今季は首位打者争いに加わるなど打線のカギを握る一人となった3番一塁の銀次。本職は捕手だが打撃と足を買われて1番右翼に定着した2年目の岡島豪郎。9月に入ってから左肩の負傷で出場登録抹消となったが、外野手の一角を占めた同じく2年目の島内宏明。今季の楽天の先発メンバーには20代の選手がずらりと名を連ねることが多かった。
■「トーホク・グリーン」とともに
「孫というには年をとりすぎているし、子供というにはちょっと若い」。星野監督が抜てきした若手野手が競うように活躍した季節は、チームが7月下旬から8月下旬の夏休み期間に東北地方で主催した試合で「TOHOKU GREEN(トーホク・グリーン)」と銘打った夏季ユニホームを着用した時期と重なる。
「東北の早期復興」「美しき東北の自然の保全」に加えて「楽天が常勝チームになることへの願いをこめた」という緑のユニホームを最後にまとったのは8月23~25日の本拠地・クリネックススタジアム宮城でのロッテ戦。前日まで今季最悪の5連敗で2位ロッテとは2.5ゲーム差。3連敗すれば首位を明け渡す文字通りの「首位攻防戦」だった。
年齢 | 指名順位 | 12年 | 13年 | |||||||
試合 | 打率 | 本塁打 | 打点 | 試合 | 打率 | 本塁打 | 打点 | |||
(赤見内)銀次 | 25 | 05年高校ドラフト3巡目 | 126 | .280 | 4 | 45 | 123 | .316 | 4 | 49 |
枡田慎太郎 | 26 | 05年高校ドラフト4巡目 | 79 | .295 | 5 | 32 | 78 | .276 | 8 | 45 |
榎本葵 | 21 | 10年ドラフト4位 | 16 | .158 | 0 | 0 | 11 | .111 | 0 | 2 |
岡島豪郎 | 24 | 11年ドラフト4位 | 43 | .258 | 2 | 11 | 74 | .333 | 1 | 13 |
島内宏明 | 23 | 11年ドラフト6位 | 41 | .299 | 2 | 17 | 97 | .284 | 6 | 38 |
1戦目は田中がエースの貫禄を見せた。自己最速の156キロを記録するなど7回無失点で開幕18連勝。先制は島内の犠飛、枡田もダメ押しの適時打を放ち、連敗を止めた。2戦目は初回に先発・辛島航がロッテのG・G・佐藤に満塁弾を浴びたが、チームはあきらめなかった。銀次の適時打などでじわじわと追い上げて同点。五回1死一、二塁で枡田がロッテ・上野大樹の低めのフォークをうまくすくい上げて左中間を破る勝ち越し二塁打。勢いをつける連勝となった。
■3年目榎本が殊勲のサヨナラ打
ハイライトは3戦目だった。今季初先発のケニー・レイが4点を先行されたものの、七回に枡田の右中間への2ラン、島内の適時打などで一気に同点。いったんはリードされたものの、九回にはロッテの抑え・益田直也を攻め、岡島の適時打で再び追いついた。
さらに1死一、二塁の場面で、回ってきたのは試合途中から代走で出場していた3年目の榎本葵。代打を送ることも「チラッと考えた」という星野監督だったが同点にしたこともあって「当てにいかずに、とにかく振れ」と打席に送り出した。
5球目。「頭が真っ白で打った球は覚えていない」と榎本は振り返るが、打球は右中間を破る二塁打となり、プロ初打点はチームにサヨナラ勝ちをもたらした。
試合後、星野監督から頭をはたかれるという手荒い祝福を受け、「一発は覚悟していたが、まさか連打とは……」と笑顔を見せた榎本。予想を超える活躍ぶりに、試合後のインタビューでは監督の口から「夢を見ているみたいだ」という言葉が飛び出した。
■3連勝に「こいつら強くなった」
「5連敗の後にロッテに3連勝していけるなという思いを持った。当面の敵に3連勝して『こいつら強くなったな』という感じを受けた」。9月26日に優勝を決めた後の記者会見で星野監督がターニングポイントにあげた3連戦。ロッテの伊東監督も「あの3連敗が痛かった」と話す。
「いいところを伸ばしてやろう」という起用法を意気に感じた若手が、監督に成長を認めさせた夏。緑のユニホームをまとった試合で10勝5敗1分け(6月のソフトバンク戦は含まず)と優勝に向かって加速した楽天は、8月28日には球団初の優勝マジック28を点灯させ、9月には「実りの秋」を迎えた。
(伊藤新時)