逆境こそ飛躍のチャンス ゴルフ・薗田峻輔(上)
逆境にさらされたとき、その人の器の大小がわかるという。身の不運を嘆いて捨て鉢になる者もいれば、「これはチャンス」と飛躍の糧にする者もいる。7月、ツアーデビューした2010年以来の2勝目をあげた薗田峻輔(23)は、明らかに後者だった。
1月、練習中に左膝が不意にがくんと崩れ、真っすぐ伸びなくなった。半月板が関節の間に挟まって戻らない。東京・杉並学院高時代に十字靱帯を断裂し、靱帯の3分の1を失ったままゴルフを続けてきた影響だった。
■リハビリ、えも言われぬ充実感
「あいつは終わった、とみんなは思ってるだろうな」。それが偽らざる心境。しかし、2月に手術を終えてリハビリ生活に入ると落ち込むどころか、えも言われぬ充実感に満たされたという。3月には日本ツアーが開幕するというのに、なぜか。
「試合に出られないから、優勝しなきゃというプレッシャーもない。体を治すことに専念すればいい。就職を考えなくていい大学生のような感じ。これが自由か、みたいな」
退院してしばらくは、曲げた足をピンと伸ばしては戻すだけ。徐々に体重をかけ、片足でスクワットをこなすまでに3週間ほどかかったが、単調なリハビリ生活こそ実り多き時間だった。
■大胆に見えて実は繊細
左膝はリハビリでも、上半身など他の部分はみっちりと鍛えられる。ラフに負けないよう手首の強化にも取り組んだ。午前10時ごろから午後6時ごろまでジムにこもって体を磨き上げ、夕方からは友人や大学の後輩と食事を楽しんだ。
明大に在学する薗田が改めて味わった"普通の学生生活"。ただ、よく練習ラウンドを共にするプロ17年目の原口鉄也に言わせれば、「そこらへんの23歳とは毎日の密度が違う。大胆に見えて実は繊細。練習の一打一打にも意味を持って取り組んでいるから」。
3年ぶりに優勝した7月のセガサミーカップ直前、原口が何気なく口にした言葉があった。「調子のいいときはもっと左に振れてたぞ」。そのひと言を、薗田は聞き逃さない。
トップからフィニッシュまでスムーズに振り抜けるのが「『左に振れる』の意味。でも、悪いときは(ダウンスイングで)手首をこねるように振っていた」と薗田。
■ひと皮むけた感覚が結実
「原口さんのアドバイスがあって」、セガサミーカップでは3日目に自己ベストの61をマークするなど、2位に3打差をつけての圧勝。ドライバーを握ったのが4月末だったから、「幸せ。ちゃんとゴルフができることを実感できた」。
原口の反応が面白い。「アドバイスなんかしてませんよ。ただの日常会話。でもあいつはその中から言葉をすくい上げるんだ」
ケガも手術もプロゴルファーとしては大きな痛手だった。しかし遠回りした日々に焦ることなく、力むわけでもない。
「これだけの時間を自分に費やしたから、自信を持たないと。本当にいい時間だった」。生来の楽天家が味わった、自分がひと皮ひと皮むけてゆく感覚。ツアー2勝目はまさにその結実だった。
=敬称略
〔日本経済新聞夕刊9月2日掲載〕