巨人・村田が覚醒 リーグ連覇へ打線をけん引
巨人が優勝マジックを「19」とし、セ・リーグ連覇へ着実に歩を進めている。なかでも打線をけん引しているのが村田修一(32)だ。7月に月間MVPを獲得し、8月にはリーグ新記録となる月間46安打をマーク。疲労がたまる夏場に好調を維持し、阿部と並ぶ大黒柱となっている。(記録は2日現在)
■8月の打率4割2分2厘
8月下旬の2位阪神との天王山はまさに4番村田の活躍あっての3連勝だった。27日の初戦は初回に相手先発のスタンリッジの出ばなをくじく先制2ランを放ち、翌日も今季4戦3敗と苦手としていた榎田から先制アーチ。「いい緊張感の中で野球ができている」と充実感に満ちている。
8月はイチローが持つ月間48安打のプロ野球記録にあと2本と迫る46本の安打を量産し、月間打率も4割2分2厘。真夏に調子を上げてきた"夏男"は巨人の4番がすっかり板についてきた印象だ。
4番に抜てきされたのは8月24日のDeNA戦からだ。その前日、打線が"夏バテ"して約1カ月ぶりに3連敗を喫した。原監督は、それまで3番だった村田を4番阿部と入れ替え、坂本を4年ぶりの7番に据えるてこ入れを行った。「まだまだ途上のチーム。この用兵が一番いいと思った」。そこで村田は3安打1打点。打線も活性化して8得点を奪い、監督の采配がぴたりはまった。
■打順は4番目の意識で
村田には4番の重圧は全くないという。「(荷が)重いと思ったら打てなくなる。(3番の)阿部さんの後ろを打つというのは5番のときと変わらない」。むしろ、打順が4番目という意識で試合に臨んでいるのがいい結果につながっているようだ。
監督が大胆な打線の組み替えができたのは村田の好調があったからこそ。3試合しかなかった3月を除き、7月は月間打率が初めて4割を超え、出場20試合で無安打はわずか2試合。チームへの貢献度の高さは、5年ぶりの月間MVPという形で報われた。「打撃が安定していていい感じが続いた。久しぶりでうれしかった」
8月に入っても勢いは止まらず、6日のDeNA戦では、「チームで一番好調だから」(原監督)と、それまで坂本の「定位置」だった3番に巨人移籍後初めて座った。走者を返す勝負強さだけでなく、チャンスメークもしなければいけない難しい打順だが、先制ソロを含む3安打でしっかり期待に応えている。
■シーズン前半、好不調の波激しく
すっかり中軸の一員として欠かせない存在になった村田だが、シーズン前半は好不調の波が激しく、打順がめまぐるしく変わった。開幕は5番でスタート。球団タイの開幕7連勝を含む20試合までは昨季の同時期と比べて1割以上も高い打率を誇っていた。
しかし5、6月になると低迷。5月26日のオリックス戦では初回に失策、その裏の2死一、二塁の好機で3球三振し、原監督に「心技体の準備ができていない」と途中交代を告げられる悔しさを味わった。その後も打順が8、9番まで"降格"。本人も「守備の人ではなく、やっぱり打てる選手になりたい」と危機感を募らせていた。
夏場を迎えての復調は打撃フォームの修正に取り組んだ成果だ。村田はシーズン中でもフォームをよく変える選手だが、6月下旬から始めたのが構えたときのバットのグリップの位置を顔の前まで下げることだった。
■バットのグリップの位置低く
実は今季キャンプでは本塁打王を獲得した2007、08年ころのようにグリップの位置を高くして、打球を遠くに飛ばす練習を繰り返していた。「一振りで得点できる本塁打は最大のチームプレー」。一発に強いこだわりを持つだけに、昨季自己最低の12本塁打に終わったことが悔しかった。キャンプでの「原点回帰」は、長距離砲としての意地だったろう。
ただ結果が出ず、軌道修正を迫られた。試行錯誤する中でたどり着いた答えが「グリップを低くする」ことだった。構えたときに懐が深くなり、「ボールを追いかけなくなった」という。さらに苦手な内角球に対応できるようになり、調子の波は底を打った。
もちろん、持ち味の本塁打も捨てたわけではない。新打法で確かな手応えをつかんだのは1カ月ぶりの一発が満塁弾となった7月5日のDeNA戦だった。「立て直すのに時間がかかったが、いい感じでバットが出てきた」。確実性を求めて強く球をたたくことに集中したことで打球も上がるようになっていた。吹っ切れたような笑顔はまさに"復調宣言"だった。
■「シーズン後半に貢献できうれしい」
8月だけで10本塁打を放ち、自身2年ぶりの20本塁打にも到達。統一球が「飛ぶボール」になった影響もあるだろうが、打撃フォームが固まったことで自慢の長打力がよみがえった。
まだシーズン26試合を残しているが、昨季の打率2割5分2厘を大きく上回る打率3割3分3厘はリーグ2位。143安打はリーグトップで最多安打の個人タイトルも狙える位置にいる。「好調が2カ月も続くなんてなかなかない」と本人も驚くが、「無駄な凡打が少なくなってきた」とも感じている。原監督も「僕の(現役時代の)打者の域のはるか上のことだから論ずるのが難しいよ」と賛辞を贈る。
移籍1年目だった昨季に続く優勝が近づくが、「大事なシーズン後半にチームに貢献できているのがうれしい。1打席でも長続きするようにしたい」と士気も高まっている。最後までこの好調を維持してシーズンを走り抜けられるか。リーグ優勝はもちろん、その先の戦いでも攻撃のキーマンになることは間違いない。
(渡辺岳史)