欧州サッカー王者、新監督が狙う「勝ちながら改革」
8月に入り、欧州の各国リーグが次々と開幕している。ドイツ1部リーグ(ブンデスリーガ)では欧州王者のバイエルン・ミュンヘンが9日、ボルシアMGとの開幕戦を3-1で制した。今季は何より、この古豪の動向が気になる。
昨季はブンデスリーガで他を圧し、6試合を残して史上最速の優勝を決めた。欧州チャンピオンズリーグ(CL)は決勝で同じドイツのドルトムントを破り、5度目の制覇。ドイツカップを合わせて3冠を成し遂げた。
■戦い方、すでに変化の跡も
3つのタイトルをもたらしたハインケス監督は勇退。代わって、今季はバルセロナ(スペイン)の黄金期を築いたグアルディオラ氏が新監督に就いた。
1試合を終えただけだが、すでにバイエルンのサッカーに変化の跡が見える。開幕戦のシステムは4-1-4-1で、中盤のアンカーにシュバインシュタイガー、トップにはマンジュキッチを置いた。
前のほうに厚みを持たせて、バルセロナと同じようにボールを支配し続けることを目指しているのがわかる。CB、SBから中盤の両翼のロッベン、リベリに早いタイミングでボールを預けて、できる限り相手陣内でゲームを運ぼうとする。
■短いパス交換増え、パスも速く
ロッベン、リベリがあまりこねくり回さなくなり、球離れは早くなった。短いパスの交換が増え、パススピードも上がっている。
簡単に言うと、より攻撃的になったのは確かだ。だが、グアルディオラ監督の考えているサッカーはまだできていない。マンジュキッチの後ろに構えるミュラーとクロースは中央寄り。本来ならマンジュキッチを使った壁パスで打開したいところなのだろうが、その細工が足りない。結局、外攻めばかりになってしまっている。
たぶん監督の頭にはバルセロナ時代に試みたゼロトップに近い形があるのではないか。特定のCFは置かず、全員がMFというイメージで流動的に動く。トップの位置には誰が入ってもいいという考え方だ。
■各選手のポジション、流動的に
そういうことをやるにはマンジュキッチでは難しいのかもしれない。たぶん、選手の組み合わせは今後、変えていくのだろう。
ライバルのドルトムントから獲得したゲッツェ(開幕戦は欠場)をクロースのところに入れるのか。あるいはトップに置く可能性もある。トップは誰でもいいという考えなのだろうから、ロッベンかリベリを配するかもしれない。そうなると、昨季までのバイエルンとはだいぶ変わってくる。
グアルディオラ監督がバルセロナで進めていたサッカーは、とにかくそれぞれが流動的にポジションを入れ替える。ただし、人が動いてスペースを空けるのではない。ボールを動かしながら、スペースを空けていく。
ボールを動かすことによって、相手をどこかに寄せる。そうしているうちに、自然にどこかに穴が開く。穴ができたら、そこを使うというサッカーだ。
■細工できるゲッツェ、カギ握る
そういうサッカーをするにはゲッツェがカギになるような気がする。ゲッツェは感覚的にはバルセロナの要であるシャビ、イニエスタに近い選手で、細かな芸当ができる。クロースとミュラーにはシャビ、イニエスタのようなことができないが、ゲッツェにはできる。だからゲッツェがキーになる。ついでに言っておくと、同じような働きは香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)にもできる。
ゲッツェのほかにも、開幕戦に出なかったメンバーにはバルセロナから取ったチアゴ・アルカンタラやハビマルティネス、成長著しいルイスグスタボもいる。彼らが入ると、またサッカーの質が変わってくるかもしれない。
開幕戦では守備の面でも気になることがあった。中盤のアンカーのシュバインシュタイガーは攻撃の中継役をするとともに、守備に回るとCBのところまで降りてきて中央を固める。
■攻守の切り替え、安定感欠く
そのとき、どうしても中盤の底にスペースができてしまう。代わりにSBのラームとアラバが中に入っていくようにしているが、今度は外が空いてしまう。
布陣をおさらいすると、GKの前は2バックで、中盤はシュバインシュタイガーと中に絞った2SBが固め、その前に5人という感じで逆三角形をつくっている。ボルシアMG戦の序盤のように前線からのプレスが掛かっているときは問題ないが、そこをかいくぐられたときに後手に回り、再三ピンチを招いた。攻撃から守備に切り替わったときに安定感を欠く。
シュバインシュタイガーがDFラインまで引いたときは、ミュラーかクロースのどちらかが中盤の底まで降りてくるとか、サイドの守備に関しては高い位置にいるラームが引いたら、ロッベンが降りてくるとか、整備が必要だろう。
■リーグ優勝、欧州CL連覇は…
戦力から見て、ブンデスリーガの優勝は間違いない。欧州CLの連覇までできるかどうかは、新監督が目指すサッカーの完成度をどこまで高められるかによる。選手のレベルが高いので、2~3カ月あればグアルディオラ監督のサッカーができあがるのではないか。
もちろん、グアルディオラ監督には相当のプレッシャーが掛かっているはず。海外で指揮をとるのは初めてで、任されたクラブは欧州王者なのだから。チームを自分の色に早く染めたいだろうが、バイエルンは勝ち続けなくてはいけないクラブ。負けが許されない中で、新しいものを植えつけなくてはならないのだから、つらい。
(元J1仙台監督)