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「三丁目の夕日」を生きて 出光興産会長・月岡隆さん

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【NIKKEI The STYLE 2019年12月8日付「My Story」を再掲】

空に赤く溶けてゆく太陽、人も町も染めて――。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の舞台は、東京タワーが建てられていった頃だ。東京・三田の下町で育った出光興産会長の月岡隆さんもその光景を間近で眺め、「変化」という刺激を知った。

東京タワーが着工した1957年、6歳だった月岡さんは、すぐそばの増上寺境内にある明徳幼稚園に通っていた。日に日に高さを増していくタワーを眺めると胸がいっぱいになった。「これで貧しかった日本も変わるのかってね。まさに『三丁目の夕日』だよ」

昭和の高度成長期の下町を描いた映画のとおり、周りでは東京五輪に向けた大改造が進んでいた。川が消えて高速道路ができ、三角ベースに興じた広場も開発された。「子供の頃から世の中の変化を刺激的に受けていた。地方に住んでいた友人の話を聞くと、やっぱり東京のスピードは全然違う」

古地図で失われた町名を探し、歌舞伎や落語に昔の暮らしの名残を見る。そんなことが今も好きなのは「自分がなぜここに生まれ、前には何があったのか」、変化の軌跡を知りたいからだ。

節々で運に翻弄され 物事の不確かさ実感

祖父母が出会った地だという東京・三田で生まれ育った。世の高揚とは裏腹に、父親の仕事はうまくいかなかった。銀座の飲食店向けの酒屋を営んでいたが、資金繰りに行き詰まる。貸金業者から身を隠すためだろう、一時期は夜逃げ同然で転居した。いいときに付き合っていた人たちは離れていく。上京してきた甥(おい)に「東京は戦場だ。おまえ自身で生きていかないと駄目だ」と説いていた姿が記憶に残る。

進学では度々不運に見舞われた。高校は都立の名門、日比谷高校を目指していた。ところが「学校群制度」と呼ぶ改変で2~4校をまとめたグループ単位でしか志望できなくなり、目標を見失う。大学は東京大学を目指したが、前年に紛争で入試が中止された影響で厳しい競争に。切り替えて慶応大学に進んだ。「目標は立てては消えていく、そういうもんだと実感したよ」

割り切れたのは、草っ原がなくなって高速道路ができるように、目の前のことは次々と変化していくと身に染みていたからだ。現実は良くも悪くも音を立てて変わっていく。それを嘆いても始まらない。

親戚から紹介された通信機器メーカーに内定をもらったが、つてで人生が決まるのが嫌になり、内定式をすっぽかした。もう行くところはないかと大学にふらっと寄ってみると、補欠募集をしていた出光が残っていた。

2~3人の採用枠に60人もいて諦めかけたが、運良く採用される。入社式は増上寺のすぐそばで開かれた。境内を訪れると、幼稚園の頃と同じように東京タワーがまぶしく映る。新たな人生の出発点も、またここだった。

このころ、心に残った言葉がある。母校、慶大を開いた福沢諭吉が重んじたという「自我作古」だ。「我より古(いにしえ)を作(な)す」と読み、困難を越えて未踏の分野を拓(ひら)く気概が込められている。「変化に負けない自分の軸を持つ。そして変化は自分で作るんだ」

仕事に脂が乗ってきた86年、月岡さんを含め4人のメンバーが集められた。お題はまさに「変化を起こすこと」。当時、出光のガソリンスタンドは約9800と今の3倍もあった。その販売店網のためになる新しい事業を作れとの指令だった。

何をやっていいかさっぱり分からない。小売業を必死で勉強し、オリジナルのかばんなどを売るアンテナショップを東京・丸の内に開いてみた。カフェレストランやコーヒーショップにも挑んだが、ちっとももうからない。「にっちもさっちもいかなくなって」思い悩み、十二指腸潰瘍になった。

異国で目にした風景 統合貫くきっかけに

結果を出せないまま、海外転勤を命じられる。行き先はカリブ海の米自治領、プエルトリコ。買収したばかりの給油所運営会社を監督する、たった1人の駐在員だった。「会社を辞めようと思った」が、子供の無邪気な言葉に救われた。「もう学校の友達に海外に行くと言っちゃったんだ。やめるなら行ってからやめればいいじゃん」

プエルトリコの社員たちの間に飛び込んだ。「社員は家族」といった出光の理念を理解してもらうのには時間がかかったが、現地社員たちは日本にも出張して経営を学んでくれた。

異国の風景には、大きな変化の兆しがあった。日本のガソリンスタンドでは給油時に窓をふき、タイヤまで磨きといった人手をかけたフルサービスが当たり前。対してプエルトリコでは一足早く、客自身が給油作業もするセルフ型が登場していた。「人口が減っていくなかで日本にも必ずそういう時代がくる。いや、来なきゃいけない」。小手先の新規事業より、目を向けるべき本質があると気づいた。

石油産業は価格競争で疲弊していた。「公正透明な卸マーケットがなく、隙間を突いた系列間の転売でもうける人がいる。真面目な人ほど収益を上げられない。いつかエネルギーの安定供給も果たせなくなる」。90年代から体力の強化を狙った再編が繰り返されるなかで、労働組合も定年もない独自の社風を持つ出光は孤高を貫いてきた。が、創業家に権力が集中しすぎたこともあって経営危機を経験する。

会長になった月岡さんは、その手で独立路線に幕を下ろす。2019年4月に昭和シェル石油と経営統合を実現。反対する創業家との3年間にわたる厳しい交渉を乗り切った。

社内の融和は簡単ではないと知っている。降って湧いた変化に戸惑う社員も多いだろう。「自分も変化に翻弄されながら乗り越えてきた。そのベースがあるから再編もやりきれた。若い世代も新しい環境で何を問題と思い、何を主体的にやるか考えてほしい」

来年の正月も、月岡さんは原点の増上寺で祈願する。リアルな「三丁目の夕日」を生きたからこそ信じて疑わない。沈んだ夕日はまた昇る――。思うようにならない人生でも、必ず道は拓くのだから。

【My Charge】開いたことのない傘 いつか降る「雨」への備え
 ロンドン駐在時に買った傘(写真上)を、いつも会長室に置いている。いつ雨が降るか分からないから? その答えは半分正解で半分不正解だ。「開けたことがないんだよ」とボタンでしっかりと締められた傘を持ってみせた。
 1984年、北海油田の開発のためにロンドンに赴任した。英国では紳士は晴れた時にも傘を持ち歩き、雨に備えていた。月岡さんもそれに倣った。
 そのころ、原油価格は石油輸出国機構(OPEC)が牛耳っていた。北海油田の台頭に対抗して中東産油国は価格を安くし、1バレル=30ドル程度だったのが一気に10ドルまで下がった。
 そのままでは買い付けた原油に損が出る。北海道まで運んで相場回復までの時間を稼ごうと決めた。「当時では一番遠くまで運んだ原油だっただろう」。しかし、ニュースになって本社にばれてしまう。怒られると覚悟したが、好意的な記事だったので「ちゃんと報告しろよ」と言われただけ。実際に相場もいくらか戻り、損も目立たなくなった。
 仕事も天気と同じ。いつまでも雨が降るわけではなく、晴れる日は必ずやってくる。その逆もしかりで「いつか雨が降るんじゃないか」と慎重に構える姿勢が大事と気づいた。たまたま開いたことのなかった傘を、冷雨への備えの象徴として飾り続けている。
 休日には神社や寺にお参りして、御朱印集めをしてきた(写真下)。神戸支店長のときに社員の間ではやっていたのがきっかけだ。
 試しに西国三十三所を回ってみると、これが面白い。京都の洛陽三十三所も巡ってみたり、出光興産創業者の出光佐三さんがあつく崇拝していた宗像大社にお参りしたり。「関連する歴史小説を読むことにもはまってしまってさ」
 天橋立(京都府宮津市)近くや、琵琶湖の竹生島(滋賀県長浜市)でもらえる御朱印を集めに行くときは、たどり着くまでが大変だった。「つらいんですよ本当に。でも最後の達成感はすごいものがあった」
 母親がなくなった時にひつぎに入れようと思っていたが、「お坊さんに『あなたが持っていた方がいいんじゃない?』と言われてね」。もう数冊の御朱印帳が、旅の思い出とともにびっしり埋まっている。

栗本優

鈴木健撮影

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