元世界最優秀選手に聞く「日本のラグビー」
ラグビーの元世界最優秀選手、シェーン・ウィリアムズ(35)が日本での1シーズン目を終えた。ウェールズ代表WTB などとして現役世界最多となる代表戦60トライの実績を持つウィリアムズ。今季は所属の三菱重工相模原をトップリーグ昇格へと導くことはできなかったが、日本ラグビー界では別次元の加速力とステップを披露した。身長170センチの「小さな巨人」に、日本のラグビーについて聞いた。
■「日本のラグビーはハイテンポだが、ときに速すぎる」
――元世界最優秀選手が日本のチームに所属してプレーするのは初めて。今季は13試合に出場して15トライだった。日本のラグビーの印象は。
「とてもハイテンポで全てのチームがボールを動かして攻める。観客は見ていてとても楽しいだろう。(体格よりスピードで勝負する)自分に合ったスタイルだし、日本人の選手たちにも合っている」
「ただ、ときには速すぎるとも感じる。ミスが多いし、ターンオーバー(密集で相手のボールを奪うこと)が頻繁に起きる。ずっと攻めていても1分後には攻守が入れ替わる。今までに経験したことがないラグビーだ」
■「タックルや密集戦の技術が足りない」
――原因はどこに。
「日本人は肉体的に強いが、タックルやブレークダウン(密集戦)の技術が足りない。姿勢が高いので、ブレークダウンで力を相手に伝えきれない。タックルで倒されたときも、もっと丁寧にボールを地面に置かなければいけない。日本のラグビーの心配な部分で、今後改善していくべき点だろう」
――三菱重工はトップリーグの下部リーグ「トップチャレンジ」の所属。あなたは出場しなかったが、昨年9月に秋田市で行われた秋田ノーザンブレッツ戦は観客150人だった。ウェールズで常に大観衆の前でプレーしていたことを考えると、寂しいのでは。
「ウェールズ代表の試合では、8万人の観客が自分のステップ一つ一つに注目してくれていた。ただ、私はアマチュアクラブのプレーが認められてプロになった選手。アマのときのころを思い出しながらやるのも楽しいよ。それに観客が8万人でも100人でも、トレーニングを十分して試合に臨むという姿勢は変わらない」
■「1対1の抜き合い練習でスピードを磨いてきた」
――日本人選手も機敏な動きが得意だが、やはり今季の動きは際立っていた。
「長年、個人練習で1対1の抜き合いを繰り返すことで、フットワークやスピード、敏しょう性を磨いてきた。どうすれば相手を打ち負かせるかということも分かるようになった。プロ生活が長いおかげで、今は練習後に10~15分、そうした1対1をやるだけで動きを維持することができる」
「チームの同じポジションには足の速い若手が多い。最初にチームに来たときにはスピードのトレーニングが足りないと思ったので、練習後に若手と1対1の練習をするようになった。みんな10年後には、私のようになってほしい」
――年齢による体の変化は感じるか。
「32歳くらいの時が一番速く、肉体的にも強かったと思っている。でも驚くべきことに、(今でも)ほとんど変化を感じていないんだ。とてもコンディションはいいし、ケガもない。若い選手と一緒にやることで、自分も若返る。今でも自分のことをまだ25歳だと思っているよ。試合の翌朝だけは年齢を感じるけれど」
■「12年前と比べ、日本のラグビーは大きく進歩」
――2008年にトップリーグから降格した三菱重工は今季初めてトップリーグ入れ替え戦に進出。NTTドコモを相手にあなたも1トライを挙げたが、21-24で惜敗した。
「負けたことは非常に残念だが、我々が目指すべきものがはっきりと確認できた。昇格に貢献するため、来季もこのチームでプレーしたい」
――6月にはウェールズ代表が12年ぶりに来日し、日本代表と2試合と戦う。
「前回、ウェールズが来日したときには私も参加したが、当時と比べて日本のラグビーは大きく進歩した。(今年の対戦では)お互いにとても激しく、ボールを動かして攻撃するラグビーになるだろう」
(聞き手は谷口誠)