安心で安全な食べ物、どうやって確保する?
読者の提案 中家徹・全国農業協同組合中央会会長編
中家会長の提示した「安心で安全な食べ物、どうやって確保する?」という課題に対し、多数の投稿をいただきました。紙面掲載分を含めて、当コーナーでその一部を紹介します。
小学校で農業体験
柳田 信一(無職、73歳)
小学校で食育を取り入れる学校が増えている。この食育に食料を「作る」段階での実学をもっと取り入れることが、食料増産やムダ削減につながるのではないかと思う。すぐに「作る」作業に取り組めるのは農業だ。四季いつでも種まき、育苗に取り組める。校庭の一角で各学年ごとの担当を決め、土作りから始め、何カ月も水やり、草取り等の手をかけて、作物ができる喜び、苦労を体験することは、きっと農作物を敬愛する気持ちを培養すると思う。また高学年生が低学年生を手伝いながら一緒に作業するようにすれば、学校の一体感も高まるだろう。教師は基本を教えるだけで、実際の作業は児童たちに任せ、出来栄えにばらつきが出れば、その原因を児童たちに考えさせれば、立派なアクティブラーニングになると思う。長い目で見れば農業に興味を持ち、農業関係に従事する若い人も増える可能性もある。人手による農業を衰退産業にしてはならない。
プレミアム農業デー
日原 和志(中央大学商学部1年、18歳)
プレミアムフライデーならぬ「プレミアム農業デー」を各企業が導入したらどうか。
月に1回決められた日に仕事を早く終え、勤務先の屋上にある畑で農業に取り組む。実際に自分が野菜などを育てることで、大人になって改めて食べ物のありがたみを感じることができ、食べ物を大切にしようと考えるようになると思う。さらに、食べ物を大切にしようとする大人の姿は家庭だけでなく、様々な場で多くの子供たちの見本になるだろう。育てた野菜は会社内に販売所を設けることで、安く購入できる。
今の時代は食べ物のありがたみを感じなくなっている。大切さを再認識するにはまず、大人から食べ物を大事にする姿を見せていく必要があるのではないか。
プレミアム農業デーの導入によってつくられる「食べ物を大切にしよう」という気持ちは、きっと食料不足の問題解決につながっていくと思う。
5G体験プログラム
大森 隆登(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部3年、20歳)
消費者の共感を得るためには、消費者に農業を体験してもらうことが必要だと思う。具体的には、農家の生活をしてみることだ。しかし、都心にいながら体験することは難しい。都心部の農家の数は減っているし、農業が盛んな地域に行くのにも費用が掛かる。それらを解決できるのが5G通信だと思う。あらかじめ農地にロボットを置いておく。消費者が5Gを利用しロボットを操作することで、まるで自分がそこにいるように感じられる。そこで種まきから収穫までを体験してみると、農家の人々の気持ちが分かるだろう。その結果、農業を身近に感じることができる。また、そのロボットも農業体験に使われない時は、自立して動くプログラムを入力する。そうすると、日常的に農家のお手伝いをすることになり、生産者の負担も軽くなるだろう。このような未来は非常に面白そうだ。
【以上が紙面掲載のアイデア】
農業特化のクラウドファンディング
丸山 将興(会社員、41歳)
「定年後に農業をやってみたい」「転職して農業をやりたい」と考えている人は意外に多い。しかし、収入が不安定だったり設備投資額が大きいなどの理由で断念した人も多いと聞く。金銭的な負担を軽減するため、農業に特化したクラウドファンディングのプラットフォームを作成してはどうか。就農者はどんな作物をどのように作りたいかネット上でアピールし、賛同した人は資金を提供する。集まった資金を元手に収穫した作物を資金提供者に返礼品として送付すれば、金銭負担が軽減される。出資を受けることにより自分の農作物を必要としてくれる人がいるという農業への動機付けにもなる。資金提供者にとっても顔が見える農家から安心安全な農作物を購入できることは大きなメリットであるし、収穫までの過程をネット上に公開するなどすれば、農作物への関心や就農への動機付けを高めることができるのではないだろうか。
農作物種子の貯蔵庫
齋藤 治輝(海陽学園海陽中等教育学校高校2年、16歳)
私は、日本が高水準で安定した食料自給率を確保するためには国民の間に自給率に関する意識付けが必要であると思う。そのための取り組みとして、「種子の博物館」を提案したい。いわば博物館の姿をした貯蔵庫であり、例えば大規模な災害や戦争などによって耕作地が荒廃した地域に農作物の種子を与えることで、生産の手助けをすることが可能となる。しかし、単なる貯蔵庫であるだけでなく博物館としての機能を備えることで、農業に携わらない一般の人にも多くの農作物に関する情報や食料自給率について広く認知してもらうことができると考える。多くの人に現在の日本の食料自給率について危機意識を共有してもらうことは難しい。だが、「種子の博物館」はその性質ゆえに多くの人に対し警鐘を鳴らし、自然な形で危機意識を醸成することができる取り組みだ。
副業農家
曽田 昌弘(会社員、39歳)
人手不足対策や、家計補完のための収入確保という文脈で、会社員の副業解禁が話題になっている。農家ではない人が副業として農業に携われる制度・体制を構築するのはどうだろう。日本には昔から兼業農家という言葉があり、家業として農業をしながら、働きに出て農業以外の収入を得ている世帯を指す。いわば、本業が農家の人が副業をするという形だ。「副業農家」は、それをひっくり返して、農家以外が副業として農業をするという形だ。例えば、平日5日間は会社員として働き、週末だけ契約しておいた農家でアルバイト的に農業に従事する。あくまで副業なので細切れの労働力にはなるが、それは小売店などをパート・アルバイトが支えているのと同様だ。工夫次第で有効な力になるだろう。
ロボットによる屋外遠隔農業
上田 竜太(中央大学商学部1年、18歳)
自立ロボットによる屋外遠隔農業は、日本の農業を変える新たな一手になると考える。農業の再興には、耕作放棄地の多い中山間地域を活用することが欠かせない。そのため、山を丸ごと買い取り、麓から中腹部にかけて穀物や野菜を栽培し、それより上では、果樹を生産する。生産した作物は麓に建設する工場で集荷、加工、出荷までを行う。そこで活躍するのが3種類のロボットである。まずは地中を分析して土壌の水分、栄養、硬さなどを管理するロボット。次は種まきや収穫のタイミング、装備などを作物ごとに変えられる、地上で作業を行う人型の自立ロボット。最後は運搬と農薬散布を行う、かなりの重量を持ち上げられるドローンである。これらはお互いにデータを共有し合いながら自律して動くと共に、管理者からの遠隔操作によっても動かせるようにする。これを行うことにより、人の力を使わず、耕作放棄地を活用しながら、安定した食料の供給が可能になる。
農業コンサルタント制度
中島 大雅(海陽学園海陽中等教育学校中学3年、14歳)
もし新しく農業を始めるなら、一つ困ることがある。それはノウハウだ。農業技術は進歩したが、農業とは自然を相手にするものだ。技術で未来を予見することはできない。そこで重要になるのが経験だ。私は「農業コンサルタント制度」を提案する。起業したとき、経営コンサルタントがアドバイスをしてくれるように、農業に関しても経験のある人がアドバイスをしてくれることで、新しく農業を始める人の不安を取り除き、メンタル面、技術面共にサポートすることができる。さらに、新しくスマート農業の導入を検討している人などもこの制度を活用するといいだろう。これによって、スマート農業が大幅に普及することが期待される。「農業コンサルタント制度」は助け合い、農業にチャレンジする人を応援する制度。農業が改革されようとしている今こそ、「助け合い」の精神が改めて求められるのではないだろうか。
食料の「レッドリスト」を普及させる
土居 大起(大阪大学法学部4年、21歳)
「安心で安全な食料確保」とはどういうことか。この課題にすぐに答えられる日本人は少ないのではないだろうか。日本の食料関連についての課題の一つである食料自給率の低下の一つの要因として、日本人の現状の認識不足が挙げられる。まずは、食料自給率低下への危機感を持つことが、この問題を解決するスタートラインであると思う。そこで、食料のレッドリストを普及させるのはどうか。既存のレッドリストに載っている生物を慎重に扱わなければならないという共通認識は、日本に普及している。これを食料にも応用すれば、食料品を保護して「自給率0%」を防ぐ意識の向上が図れるのではないだろうか。そして、レッドリストに載っている食料の商品に、ロゴを用いるなどして可視化することで、消費者が消費の場で、価格以外の観点からも選択を行い、食料自給における「フェアトレード」を促すこともできるだろう。
農学部の国際化を拡充する
矢作 知生(カナダ・レスブリッジ大学教養学部4年、24歳)
安心安全な食料を確保するために、農学部の国際化が必要だと思う。農学は経営(文系)と技術(理系)の2つの柱で成り立っている。文系の農学部生は農業経済学や農政学などを学び、経営的な視点から農業の利潤最大化を目指す。そんな彼らが、各国の農業の状況や農業政策について詳しく学び、国際的なリーダーシップを持つ人材となれば、国際市場において食料確保がより円滑になると思う。また、理系農学部生においても国際化が必要だ。国内農家は、日本で栽培可能な作物の専門家だ。逆に国内で栽培が難しい作物は輸入に頼り、その作物の知識を持つ人材は多いとはいえない。そこで、理系農学部生が率先し、海外でそれらの作物について学び、科学的根拠に基づいた安全性を判断できる人材になれば、安心安全な食料を選びやすくなると思う。したがって、農学部生の国際交流の機会をさらに充実させることはどうだろうか。
全く新しい農業法人
西藤 実(海陽学園海陽中等教育学校高校1年、15歳)
持続的に食べ物を供給するには、日本の農業を変えなければならない。農家が減少する主な原因は、若者が農業への憧れを抱かないことにある。ただ、若者の思考を変えるというのは無理な話だ。そこで必要となるのが組織改革だろう。
今までのように専業農家が農業を行うのはこれから先、困難だ。そこで主に、デザイン企業、IT(情報技術)企業、動画配信会社、機械メーカー、鉄道会社などの大手企業が出資し、新しい農業法人をつくる。また、各企業から毎年、数人から数十人の現役社員が出向して農業の現場で働く。
デザイン企業は商品パッケージの制作、IT企業は温度や水の管理、動画配信会社はCMなどの広報、機械メーカーは機材のメンテナンス、鉄道会社は高架下の用地活用というように各々の分野で農業を分担し、不足はアルバイトで補う。こうすることで、農業がより持続的になり、かつ効率上がって、食べ物を持続的に供給できるようになるだろう。
学べる食堂・マルシェの展開
伊勢田 良一(経営者、57歳)
安心で安全な食べ物を確保するには、消費者の意識変革が大切だと思います。意識改革には、「安心で安全な食べ物」に関する啓発活動が有効です。そこで、JA全中が各地にコンセプトに合った食堂やマルシェを展開されることを提案します。
位置づけとしてはアンテナショップ。「安心で安全な食べ物」に関するセミナーなどを開催し、「安心で安全な食べ物」の生産者・JA全中の取り組みをレクチャーしたり紹介したりする。食べる側とつくる側の距離を縮め、相互理解と信頼を深めることで「安心で安全な食べ物」への「価値」を認めることを実現できればいい。形が整っていなくても「安心で安全な食べ物」を選ぶという行動につながることを期待している。
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