勃発 貿易戦争(2)手柄争い 混乱に拍車
「この缶が関税で0.6セント値上がりして、誰が困るんだ?」。鉄鋼とアルミニウムを対象とした関税発動案公表から一夜明けた3月2日。米商務長官のウィルバー・ロス(80)はコンビニで買った1.99ドルのスープ缶を片手に大見えを切った。
ロスは2月には大統領のドナルド・トランプ(71)に提出した輸入制限の提言を突然公表するというサプライズで耳目を集めた。派手なパフォーマンスを連発する裏には、貿易戦争の先陣を逃した焦りがあった。
トランプは1月13日にフロリダ州パームビーチの別荘「マール・ア・ラーゴ」で米通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザー(70)と会い、温存してきた対中強硬策の実行を決断。2日後に中国国家主席の習近平(シー・ジンピン、64)に電話で「対中貿易赤字は持続的ではない」と告げた。
その翌週に太陽光パネルを対象にセーフガード(緊急輸入制限)を早々に発動を表明したとき、トランプが大統領令にサインする場面に同席したのは、ライトハイザーただ一人だった。商務省は17年4月にいち早く輸入制限の調査に着手していたのに、ロスは貿易戦争の前哨戦に立ち会う好機を逃した。
政権の命運を左右する中間選挙を11月に控え、トランプはなりふり構わず人気取りの「米国第一」に走る。その旗振り役に誰がなるのか。更迭人事が相次ぐなか、手柄を競う主導権争いが混乱に拍車をかける。一度は降格の憂き目に遭った大統領補佐官のピーター・ナバロ(68)は対中関税の伝道師として復活。反対派の国家経済会議委員長のゲーリー・コーン(57)はワシントンを去った。
拙速で場当たりな内実はお寒いものだ。3月20日、関税適用の除外を求め、欧州連合(EU)の欧州委員、セシリア・マルムストローム(49)は専門家で固めた10人態勢でワシントンに乗り込んだ。迎え撃った商務省側はロスら3人。交渉では「多勢に無勢でEUが一枚も二枚も上手だった」(関係者)。
EUにやり込められた翌々日の22日。中国の知的財産侵害に制裁関税を発動する大統領令の署名式で、ロスは何食わぬ顔でライトハイザーよりもトランプに近い中心寄りに陣取った。
トランプ自身と、政権幹部たち。秋の中間選挙に向けて、それぞれの生き残りを懸けた「内向きの論理」が世界の通商秩序をかき乱し続ける。(敬称略)
[日本経済新聞朝刊2018年4月24日付]