マスターズ
松山の勝算は?
PGAデータで探る
男子ゴルフのマスターズ・トーナメントが4月6日、米ジョージア州オーガスタで開幕した。松山英樹の直近6カ月は進境著しく、世界ランキングはトップ10圏外から4位まで上げてきた。松山のゴルフは静かに着々と進化している。2015年は5位、16年は7位……。毎年「聖地オーガスタ」で開催するメジャー初戦のマスターズは、松山にとってここまで相性がいい。世界ランク4位で迎える今季はいつになく期待も高まっている。米プロゴルフ(PGA)ツアーのデータから、松山の勝算を探ってみた。
AP
男子ゴルフのマスターズ・トーナメントが4月6日、米ジョージア州オーガスタで開幕する。松山英樹の直近6カ月は進境著しく、世界ランキングはトップ10圏外から4位まで上げてきた。松山のゴルフは静かに着々と進化している。2015年は5位、16年は7位……。毎年「聖地オーガスタ」で開催するメジャー初戦のマスターズは、松山にとってここまで相性がいい。世界ランク4位で迎える今季はいつになく期待も高まっている。米プロゴルフ(PGA)ツアーのデータから、松山の勝算を探ってみた。
選手の実力をより正確に表すSG
世界ランキング以外にも、松山の高い能力を示す数字がある。ストローク・ゲインド(SG)といわれるものだ。日本ではなじみがないが、ゴルファーの力をより正確に測る指標としてコロンビア大のマーク・ブローディー教授が開発したもので、PGAツアーは03年から導入している。
この指標は、一人のゴルファーが、1ラウンドをホールアウトするまでの打数が、PGAツアー全選手の平均値と比べて、どのくらいいいのか悪いのか、を示すものだ。全試合、全ての距離からのショットを分析して数値を出している。また、ホールアウトするまでの打数だけでなく、ロングゲーム(ドライバー、アイアンなど)やショートゲーム(パッティングなど)のように、細かく分類して分析することも可能で、選手の強み・弱みが分かる。
従来使われてきた指標では、スコアが出やすいコースで行われる試合も難コースもひとしく扱うため、「パーオン率」「フェアウエーキープ率」が高い選手が世界ランキング上位というわけでもなかった。選手の平均値と比べ、なおかつピンからの距離を考慮に入れることで、SGはより選手の実力を反映しているとされる。
「SGパッティング」と「SGティー・トゥー・グリーン」
SGパッティングは「ある距離のパットを沈めるのにかかったパット数の平均値よりどれだけいいか、悪いか」で、パットのうまさを測る指標だ。グラフィック1では「0」が平均値になる。
SGティー・トゥー・グリーンは「ティーショットを打ってからグリーンにのるまでの打数が平均値よりどれだけいいか悪いか」で、つまりロングゲームの善しあしを示す。
「SGパッティング+SGティー・トゥー・グリーン」は「トータルSG」と呼ばれ、ゴルファーの総合力を示す指数だ。左のグラフでは横軸にSGパッティング、縦軸にSGティー・トゥー・グリーンをとり、色が明るい位置にいる選手ほど、優れた選手ということになる。
タイガー・ウッズは別格の選手
各選手のストローク・ゲインド(SG)比較(2003年〜)
-0.5
0.0
0.5
1.0
3
2
1
0
-1
-2
← パットのスコアへの貢献度 →
↑
ティーショットから
グリーンに乗るまでに打つ
全ショットのスコアへの貢献度
↓
ウッズ
シン
マキロイ
ローズ
スコット
ジョンソン
ワトソン
フューリク
松山
ミケルソン
ストリッカー
ドナルド
スピース
デー
ファウラー
0が全ゴルファーの平均値
グラフィック1は03年以降、各選手の成績ベスト5年分のデータで比較している。全盛期に神がかったプレーでファンを魅了したタイガー・ウッズ(米国)は、パッティングでもロングゲームでも突出していたことは、誰の目にも明らかだ。03年~16年までにメジャー大会を6度優勝したのも当然だろう。第2グループには、同5度優勝のフィル・ミケルソン(米国)や同4度優勝のロリー・マキロイ(英国)らがいる。ミケルソンはパットが得意で、マキロイはパットは平均的な選手だがロングゲームに秀でていることが分かる。ツアーデビューして3年ほどの松山は彼らのやや下に位置するが、米ツアーの歴史の中でもすでにトップレベルの力を持つ選手であると数字も証明している。
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タイガー・ウッズ
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フィル・ミケルソン
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ロリー・マキロイ
2003年以降のメジャーの優勝者たち
- ランキング11位以下の優勝者
- 複数年にわたってメジャーを勝ってきたタイガー・ウッズは別格の存在
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
マスターズ | 全米オープン | the Open | PGAチャンピオンシップ | |
---|---|---|---|---|
2003 | Mike Weir(6) | Jim Furyk(5) | Ben Curtis(34) | Shaun Micheel(46) |
2004 | Phil Mickelson(5) | Retief Goosen(4) | Todd Hamilton(16) | Vijay Singh(1) |
2005 | Tiger Woods(1) | Michael Campbell(16) | Tiger Woods(1) | Phil Mickelson(3) |
2006 | Phil Mickelson(3) | Geoff Ogilvy(10) | Tiger Woods(1) | Tiger Woods(1) |
2007 | Zach Johnson(15) | Angel Cabrera(14) | Padraig Harrington(8) | Tiger Woods(1) |
2008 | Trevor Immelman(20) | Tiger Woods(1) | Padraig Harrington(4) | Padraig Harrington(4) |
2009 | Angel Cabrera(25) | Lucas Glover(20) | Stewart Cink(16) | Yang Yong eun(31) |
2010 | Phil Mickelson(4) | Graeme McDowell(6) | Louis Oosthuizen(20) | Martin Kaymer(3) |
2011 | Charl Schwartzel(9) | Rory Mcllroy(3) | Darren Clarke(48) | Keegan Bradley(31) |
2012 | Bubba Watson(8) | Webb Simpson(11) | Ernie Els(24) | Rory Mcllroy(1) |
2013 | Adam Scott(2) | Justin Rose(4) | Phil Mickelson(5) | Jason Dufner(15) |
2014 | Bubba Watson(4) | Martin Kaymer(12) | Rory Mcllroy(1) | Rory Mcllroy(1) |
2015 | Jordan Spieth(1) | Jordan Speith(1) | Zach Johnson(13) | Jason Day(2) |
2016 | Danny Willett(11) | Dustin Johnson(3) | Henrik Stenson(4) | Jimmy Walker(21) |
今、ホットな選手は
各選手のストローク・ゲインド(SG)比較(2016年〜)
-0.5
0.0
0.5
1.0
3
2
1
0
-1
-2
← パットのスコアへの貢献度 →
↑
ティーショットから
グリーンに乗るまでに打つ
全ショットのスコアへの貢献度
↓
ラーム
スコット
ジョンソン
マキロイ
ローズ
ファウラー
松山
スピース
デイ
ミケルソン
0が全ゴルファーの平均値
タイガー・ウッズは規格外の選手であることは数字も証明したが、最近はさえない。今年のメジャーを占うために、16年以降のSG(グラフィック2)を見てみよう。世界ランキング1位のダスティン・ジョンソン(米国)とほぼ同等の好位置にいるのが、22歳のジョン・ラーム(スペイン)だ。まだプロ転向して1年にも満たず、データが少ないので判断は難しいが、現在「ホット」な選手であることは間違いない。また、ベストの5年では松山よりも数字が見劣りするリッキー・ファウラー(米国)も、16年以降に限ると、松山よりやや上にいる。現在世界ランク8位だが、17年に限るとトータルSGは2位。最近、いいゴルフをしているといえる。
ロイター
ジョーダン・スピース
ロイター
ジョン・ラーム
ロイター
リッキー・ファウラー
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ダスティン・ジョンソン
パット苦手組にやさしいマスターズ
16年1月以降の松山のトータルSGはPGAの全選手中で12位。メジャー大会の優勝経験があるジェイソン・デー(オーストラリア)、ジョーダン・スピース(米国)ら、近年の強豪選手と似た位置にいる。デーとスピースがロング、ショートそれぞれのゲームに優れた万能型であるのに対し、松山はロングゲームの優位性を原動力にランキングを急上昇させてきた。実際、彼はグリーン上のプレーは平均値よりも悪い。最近、あまりいいプレーが続いていない原因もパッティングの不調がプレー全体を引っ張っているかもしれない。17年に入ってからのトータルSGは30位だが、SGティー・トゥー・グリーンの7位に対し、SGパッティングは185位と大きなギャップがある。
しかし、松山はまだ運がある。過去の大会を見ても、オーガスタはメジャー大会の中で最も、パットが苦手な選手にやさしいコースである。マスターズの過去12大会の優勝者のうち、半分の選手はその年のSGパッティングで平均値以下だった。半数以上とは、ほかのメジャー大会の中でも最も多い。でも、マスターズ覇者はロングゲームのSGでは平均以上の数値を残している。
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松山英樹
松山より年間のSGパッティングが低い選手で、マスターズのグリーンジャケットを着た選手は、08年のトレバー・イメルマン(南アフリカ)1人しかいない。松山の17年のSGパッティングは先も書いたように現在185位、平均よりはるかに悪い-0.46。それより悪かったイメルマンは当時、優勝候補ではなかった。世界ランキングは29位で、トータルSGの順位も悪かった。しかし、グラフィック3を見ても分かるように、ゴルフは他のスポーツと比べ、イメルマンのような伏兵の優勝が起きやすい競技なのだ。
グラフィック3にあるように、1990年以降、世界ランキング1位のゴルファーがメジャーを制した確率は20%以下、むしろトップ15よりランキングが低い選手が勝つ率の方が高い。一方、テニスはトップ15以外の勝率は男女ともに5%程度。2003年以降でも、ケガで第17シードまで落ちたロジャー・フェデラーが制した17年全豪オープンを含め、トップ10以外の選手が優勝したケースは3人しかない。
ゴルフとテニスの世界ランキングとメジャー勝率
50
40
30
20
10
0
1
2-3
4-7
8-15
16-
選手の世界ランキング(位)
1990年以降の四大大会の勝率(%)
男子テニス
女子テニス
ゴルフ
伏兵の勝機が大きいゴルフ
例えば、テニスのような競技の場合、優勝するにはある一定の数字に達しないと勝てない。ATPツアー大会なら2セット先取、四大大会なら3セット奪わなければ勝利を手にできない。伏兵が試合の序盤で大きなリードを奪っていたとしても、やがて本命が試合をコントロールし、本来の能力を生かして巻き返し、逆転することは十分にありうる。たとえ「大物食い」をしても、伏兵が決勝まで7試合、2週間ずっと絶好調を維持することはかなり難しい。
ゴルフでは、伏兵が最初の2~3日で大きなリードを奪えば、後は最終日までそのリードを守ることも可能だ。2月のフェニックス・オープンカップ優勝以来、調子を落としている松山だが、イメルマンのようなプレーができたら、メジャーの勝者に割って入ることができるかもしれない。9年前のオーガスタで、初日にリードを奪い、3日間首位を貫き、最終日はスコアを3つ落としながらも逃げ切ったように……。その年のウッズはパットに泣かされ、最終日にタイガー・チャージとならず、2位だった。
松山英樹
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- 取材・制作
- John Burn-Murdoch、原真子、谷口誠、清水明