オバマ氏、アッバス議長と会談 米は中東外交に切り札なく
【エルサレム=中山真】中東を訪問中のオバマ米大統領は21日、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談し、中東和平交渉の再開を支援する意向を表明した。ただ、和平交渉実現の難しさを認め、再開に向けた具体的な提案はなかった。中東外交の立て直しを目指すオバマ大統領に切り札はなさそうだ。
「どんな困難もあきらめてはいけない。変化には時間がかかる」。オバマ大統領はアッバス議長との会談後の記者会見でこう繰り返した。パレスチナ国家樹立を目指す「2国家共存」は可能だとの従来の主張を訴えた。イスラエルによる入植活動を批判しつつも、その即時停止を交渉再開の条件にすることには慎重な考えを示した。
これに先立つイスラエルのネタニヤフ首相との共同記者会見でオバマ大統領は「新しい提案をするのではなく、話を聞くことから始めたい」と語っていた。アッバス議長との会談でも話の聞き役に徹したようだ。「直接の交渉でしか和平は実現しない」とし、従来の仲介役とは距離を置いた。
オバマ大統領は1期目就任直後に中東和平担当特使を任命し、歴代政権以上に中東和平の進展に強い意欲を示した。だが、今回の訪問では大統領周辺は「大きな進展はない」と早くから説明し、具体的な成果への期待値を下げようとしてきた。
背景にあるのは1期目の苦い経験だ。イラク戦争で傷ついたイスラム社会との関係修復を重視、イスラム社会に直接語りかけるやり方で和平を訴えた。その一方で、イスラエルの入植地拡大などを強く批判した。米国への不信感を募らせるイスラエルへの訪問を2期目まで先送りし、強引に進めようとした中東和平交渉は頓挫した。
中東での民主化運動「アラブの春」以降、米政府の中東地域の足場は大きく揺らいだ。中東政策の足がかりだったエジプトの政権が崩壊。現在のモルシ新政権は「米国を同盟国だとは思わない」と明言する。反米デモも盛り上がり、中東の米離れが加速した。
オバマ大統領が今回の中東訪問で最優先したのは中東和平やイランなどの中東情勢への対応ではなく、中東最大の同盟国であるイスラエルとの関係修復だ。20日のネタニヤフ首相との会談でもイランやシリアの情勢で具体的な対応策に踏み込まず、外交解決の必要性など一般的な協調姿勢を訴えたにすぎない。
イスラエルも国内政局は不安定で、民主化が進む中東地域で孤立しかねないと懸念する。イスラエルのメディアはオバマ大統領の中東訪問を「何のための訪問か」と疑問視する論説を載せた。
米政府内で今後、中東地域の安定は米国にとって死活的な利益ではないとの見方が強まりそうだ。新型ガスの「シェールガス」革命で中東産原油への依存度は下がる。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉などをテコにアジア太平洋地域の成長を取り込む方向に米外交の関心は移っている。
超大国として仲介役を任じてきた中東和平交渉で深入りを避けるオバマ大統領の姿勢に、そんな米外交の潮流変化が投影されているようでもある。イスラム社会に詳しい池内恵・東大准教授は「米国内では中東和平がそれほど重要ではないという議論もあり、長期的に今回の訪問は米国の中東撤退の岐路となる可能性もある」としている。