「私が舞台の全責任を負います」24歳舞踊家の覚悟
大貫勇輔インタビュー
――『ドリアン・グレイ』オーディションの経緯は
「2010年に初めてマシュー(・ボーン)さんの白鳥を見ました。そのときちょうどリチャード(・ウィンザー。今回の『ドリアン・グレイ』でダブルキャスト)の回を見ていて、すごく華のあるきれいな体の人だと思っていました。いつか、自分もこんな舞台に立てたらとずっと思っていたんです。だから、オーディションを受けられると1年前に聞いたとき、『絶対受ける』と即答しました。ロンドンで、といわれてもそんなこと関係なかった。大変なチャンスだと思った」
「オーディションでは3曲踊ったんですが、1曲目ちょっとやりすぎちゃって、『君はバジル(メーンキャストの一人)が向いているかもしれないね』といわれてやばい! と思いました。そこで、2曲目で少し自分を落ち着かせて、冷静に、ちょっとセクシーな感じでやってみたら、(マシューさんが)こういうのもできるんだね、と。そこでほぼ(ドリアン・グレイの)役に決まりました。やるつもりでいったけど、やっぱりすごく嬉しかった」
――踊るときに意識していることはありますか。原作が言葉で表現しているものを踊りで表現するわけですが
「やっぱり、原作は小説なので、言葉で表現されているから、伝わりづらい部分は言葉でイメージできるし、幻想的で甘美な雰囲気が巧みな言葉で表現されているけど、それをダンスで表現しようとしたときにどうするのか、ということですね」
「今回、稽古場に入ってすごく思ったんですが、ダンスの舞台っていうより芝居の舞台、って感じなんですよね。ダンスの変わった形じゃなくて、芝居の変わった形。ベースが芝居にあるんです」
「芝居の変わった形をダンサーが演じるからこそできる世界、それが今回の作品にはある。立つ姿、歩く姿、ポーズをとったときに絵になる体のライン。そういう部分の美しさやエロス。原作が言葉で表現している部分をこっちは体の使い方と表情だけで描かなくてはいけない。それは、稽古をつまないとできないことです」
「役になりきる芝居としての意識と、ダンスとしての膨大な量の振り付けを同時に進めなくてはいけない。場面ごとに切り取ったとき、いつでも1つの切り取った絵として成立しなくてはいけないので、(どのタイミングでどう動くか)すべてカウントで決まっているんです。(場面が変わるたび)名前を呼ぶわけでもない。だから、1カウントずれるとお客さんに何をやっている場面なのか伝わらなくなる。ダンスでは『振り向く』という動きはただ首を傾けるだけですが、芝居だと当然、気持ちによって振り返り方が変わる。その2つを両方することがとても時間がかかる作業だし、意識していることです。本当に気が抜けない」
――ドリアン・グレイ役を演じていて、自分に重ねる部分はありますか
「ドリアン・グレイという人物はとても好奇心旺盛な人間だと思います。舞台で、前半はイノセント(純朴)な人物といわれ、後半ではパラノイア(偏執的)な人物といわれています。ストーリーとともに狂っていく。なぜそうなるかというと、好奇心が旺盛だからかなと思っています。いろんなことや人が気になって、いい面も悪い面も吸収してしまう。だからこそ、いい面を吸収してスーパースターになるけれど、悪い面も吸収して破滅していく。そういう意味で好奇心が強いところが似ていると思います。僕も、ダンス、というジャンルのなかでもコンテンポラリー、ジャズ、クラシック、なんでもやって"しまって"いるし(笑い)。似てるかなあ、と思いますね」
――大貫さんがダンスを始めたきっかけは
「自分が生まれる前から母親がダンスをやっていました。7歳のときから自分もダンスを始めて、気付くと生活の一部になっていた。といっても、小学生のときはダンスだけではなくて、体操・水泳・剣道・サッカーもやっていたし、もっと遊びたいと思っていたことを覚えています。けれど、小学校の途中くらいかな、レッスンの時間以外にも自分で練習するようになって、高校から外のスタジオに通い始めました」
――プロになろう、ダンスで生きていこう、と思ったタイミングはありましたか
「実はダンスで生活しよう、と強く思っていたことはないです。気がついたら、食べていけるようになっていた。けれど、そのときは『プロ』ということの意味が本当に分かっていなかったと思います。ダンサーの『プロフェッショナル』ってなんなのか。今でも考えています。食えたらプロなのか、お金をもらったらプロなのか。そういうことを意識し始めたのは、去年出演した『キャバレー』くらいからだったと思います」
――大貫さんの考えるプロの自覚、プロとアマの違いとは
「僕の場合はですが、覚悟していた『深さ』です。具体的には、周りで支えてくれるスタッフへの感じ方と、チケットをお金を払って買ってくれるお客さんへの意識が変わった。それまでは、演出家や振付家の作ったものをただ踊る、というスタイルだったんです。そのことだけを一生懸命やる。
ただ、(『キャバレー』に出演したあたりから)少しずつリハーサルの仕方が変わりました。今まで受動的だったものが能動的になった。自発的にわからないことはわからない、というし、こうしたほうがいいと思ったらきちんと自分の意見をいう。自分は出演者なわけだから自分の責任になるという意識。それまで、自分は責任を負っていない、という意識だったと思います。『全部(演出家や振付家など)周りの人たちがいってたから、ただ僕はそれに全力を尽くしただけです』と。今はそうではなくて、もし舞台が失敗したら、その責任は全部自分のせいだ、と思うようになりました。その意識は、この『ドリアン・グレイ』の稽古に入ってはっきりと強くなっています」
――その変化はなぜ?
「1番の理由は、『ドリアン・グレイ』って舞台の名前が自分の役の名前、ということへの意識が大きいと思います。『キャバレー』も確かにメーンキャストだったけど、今回は本当に自分が主役。今までは自分の成功だけを考えていたけれど、今は作品の成功、周りのカンパニー(仲間)の成功を考えています。たとえば、隣にいる人が居心地悪そうにしていたら声をかけたり、ある人がもう一度やりたいな、という顔をしていたら僕が演出家に声をかける。舞台にかかわる全員が、もっと気持ちよく過ごせるように、自分が積極的に関わらなくては、と意識するようになりました。今までは、そういうことは自分の仕事じゃなく、誰かがやることだと思っていたんです」
――やめたい、と思ったことはないですか
「やめたい、と思ったことはないですね。もう生活の一部です。ただ、続けることの難しさは毎日感じています。何においても、やめることは簡単だけど、続けることは本当に難しい。だから、今始めたことはすべて続けようと決めています。ダンスも、芝居も70歳になってもやり続ける。1年前、この舞台のために自分で決めたことがあって、筋トレとバーレッスンを毎日やる、ってことなんですけど。特に、この舞台に入ってダブルキャストのリチャードと比べて体が小さいな、と思いました。特に胸に筋肉をつけたかったので、腕を狭くしてプッシュアップする、というのを毎日やってます。もちろん、それを続けるしんどさってあるけど、そこから目に見えない力が自分についていることを感じることもある。とにかく続けることが今一番の目標なんです」
――舞台を見にくるお客さんに一番伝えたいことは
「今回の舞台は、すごく残酷だし、エロスが強調されているものですが、見てて美しいなと感じてほしいし、最終的に破滅する姿を見て逆に今自分のそばに大切な人がいることのありがたさを再認識してほしい。自分はこうなっちゃいけないぞって、ならないだろうけど(笑い)。よく僕は『カンパニー力』って言葉を使うんですが、舞台で表現している僕らカンパニーは強い『絆』を持って、この作品を破滅に向かわせています。作品は破滅に向かうけど、僕らは全員でいい作品を作ろうとしている。その思いは、お客さんに見えないところで何か伝わるかなと思っています。ああ残酷だったな、だけじゃなくて考えてもらえる舞台にできたらいいですね」
――これから、どんなダンサーになりたいですか
「歌も芝居もダンスもちゃんとやれるような人になりたいですね。今、日本で全部やれる人って限られていると思いますが、そのなかで僕はそういった方々と肩を並べて、むしろ超える存在になりたいと思っています」
「憧れの人、っていうとぱっと思い浮かぶのが(映画『レ・ミゼラブル』で主役を演じた)ヒュー・ジャックマン。彼のインタビューを読むと、とても人間らしい人で、とても愛があるんです。彼の生き方を見ても、きちんと積み重ねて今の地位を作ってきた、ということが伝わってくる。彼の出演している作品も好きだし、聞いた話ですけどしゃべりも歌もダンスも全部できる。目標ですね」
(文・電子報道部 松本千恵、写真・編集委員 葛西宇一郎)