浅田真央、納得の集大成フリー 4年間の進歩凝縮
終わり良ければすべて良し、と言っては少々乱暴かもしれないが、浅田真央選手のフリーの演技には心を打たれた。勝負の世界に「タラレバ」はないけれど、最終滑走グループだったら点数はもっと出ていたに違いない。それほど素晴らしい演技だったと思う。
前夜の失意のショートプログラム(SP)から24時間足らずでやってきたフリーで、果たして心身ともどこまで切り替えることができているか心配だった。だが、最初の滑り出しでのクロスを見て、前日までとは違うと直感した。
■最後の最後で強さやうまさを証明
氷にしっかりと力が伝わって押せているのが分かった。スピードに乗っていたから冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も無理がなかった。本人の中では、次のフリップ―ループの連続3回転ジャンプもクリアしたことで、かなり落ち着いたのではないか。SPでは取りこぼしがあったスピンやステップはすべて最高難度のレベル4を獲得していた。
各要素からなる基礎点は66.34点で、優勝したソトニコワ選手(61.43点)や銀メダルの金妍児選手(57.49点)を上回っている。回転不足こそあったものの、6種類の3回転ジャンプも全て着氷した。
前回バンクーバー五輪からの4年間では、佐藤信夫先生の下でトリプルアクセルを一時封印してスケーティングを一からやり直した。この日の演技は、その成果はしっかりを実を結んでいたと感じさせるものだった。4年前に比べると、ジャンプ以外で見せることが各段に進歩した。以前はジャンプばかりに目が行きがちだったが、スケーティングのストロークも大きくなり、常に手や背中までも使った動きができるようになった。
彼女はただのスケーターではない。色々な期待やプレッシャーを背負い込んできた。メダルを逃したのは本人も不本意だと思うが、納得した表情で演技を終えることができてよかった。最後の最後でやっぱり浅田選手は強いな、うまいなというのを証明してくれた。
金メダルをかけた戦いも見応え十分だった。表彰台に上った3人は、ジャンプの回転不足やエッジミスが一つもなかった。五輪の舞台にふさわしいハイレベルな戦いだったと思う。
■優勝のソトニコワ、演技全般に勢い
優勝したソトニコワ選手は地の利もあったと思うが、演技全般に勢いがあった。スピードが最後まで落ちず、ジャンプも踏み切った瞬間に「ボン!」と上がるような感じ。ああいうジャンプは回転不足を取られにくい。
採点表を見ると、着氷後に少し乱れた3連続ジャンプを除けば、すべての要素で出来栄え点(GOE)が1点以上加点されていた。基礎点が1.1倍になる演技後半に連続ジャンプを2度組み込んだプログラムも奏功した。
フリーで逆転を許した金妍児選手は、少し体が重いように感じた。冒頭の3回転ルッツ―3回転トーループは高さも幅もあったが、後半に組み込んだ3回転ルッツは危なかった。それ以外にも力で持っていったなというジャンプがあった。バンクーバー大会のときに比べて、全体的にスピードももう一つだったと思う。
■前回女王の風格、際立つ表現力
それでも、存在感のある演技は前回女王の風格を感じさせるものだった。演技構成点では全選手中トップで、表現力も際立っていた。黒の衣装も格好良くて、気品がありつつ妖艶さもたたえる大人の雰囲気を引き出していた。連覇こそならなかったが、「キス・アンド・クライ」で見せた笑顔を見る限り、結果にも納得していたのだろう。力は出し切ったのではないか。
銅メダルに輝いたコストナー選手もたたえたい。地元トリノを含む過去2度の五輪は力を出せずに終わっていたが、今回は団体戦のSPから自己ベストを更新し続ける会心の出来だった。
彼女の力を最大限引き出した要因としてプログラムに触れたい。コストナー選手は元々、ジャンプが課題といわれ続けてきた。169センチの長身を生かしたダイナミックな演技が魅力だが、ジャンプの失敗を修正できずに崩れることがこれまで何度もあった。
浅田のSPも担当した振付師のローリー・ニコルさんによるフリーは、ジャンプの後に難しいステップや動きを組み込まず、まずジャンプに集中させるように構成されていた。「ボレロ」の単調な旋律をうまく生かしたともいえるプログラムで、演技構成点の「曲の解釈」ではジャッジ9人中4人が10点満点をつけたほど。作戦勝ちといっていいだろう。
(振付師)