明と暗、二極化するハワイのゴルフコース
おやじのハワイ・ゴルフ合宿(3)
華やかなイメージがある楽園・ハワイのゴルフ事情だが、ここにきて明暗が分かれているという。
かつて、カウアイ島プリンスビル・リゾートには2つのゴルフ場があった。マカイコースとプリンスコースである。しかし、2014年いっぱいでプリンスコースはその歴史を閉じた。
プリンスコースは難易度が高く、プリンスビル・リゾートで3回ゴルフをするとしたら、「マカイコースが2回、プリンスコースが1回」という割合の人が多かった」とマカイコースのゼネラルマネジャー(GM)、アレックス・中島さんは振り返る。結果として赤字が続いたプリンスコースのオーナーは数年前、周辺の土地(約1100エーカー)を合わせ、3億4000万ドル(現在のレートで約388億)でハワイのデベロッパーと中国系の投資家グループに売却したと「ゴルフアドバイザー」というウェブサイトが報じている。
そのとき、マカイコースのようにリニューアルして、さらにプライベートコースとしてオープンする計画があったそうだが、今なおコースは野ざらし。一部は芝を刈り、水もまいてきれいに保っているものの、見えないところはまるで手が入っていない。買収の背景にはコースの周辺を開発し、土地、建物を販売。それを売るためにゴルフ場という付加価値を付けるという思惑があったようだが、整地すらする前に資金が底をついたか。
このことは、華やかに見えて実は難しいハワイのゴルフ場経営の一端を映し出している。中島さんによれば「ハワイのゴルフ場は二極化している」という。経営が安定しているところと、そうでないところ。明暗が分かれているようだ。
それは例えば、コース状態を見ればよくわかる。フェアウエーだけならまだしも、花道やグリーンにも草が生え、芝もところどころはげているとなると、おのずとそのコースの苦しい経営状態が透けてしまう。なぜなら本来、コンディションはゴルフ場の生命線。しかし、そこをおろそかにしなければならないほど、経費削減を迫られているということになるからだ。プリンスコースも売却前、維持費がかさみ、経営が苦しくなっていった。名門といわれるところでさえ、そうして時代の波にのまれてしまう。
コンディションが悪くなればゴルファーの足は遠のく。安くしてゴルファーの数を増やそうにも、ハワイの場合は人口と観光客の数が限られ、そもそもパイが少ないためそういうロジックが成り立たない。
今、ゴルフ場として成立しているのは、例えばホテルのアメニティとなっているところ。ゴルフコース自体が赤字でも、ホテルの方で黒字ならば維持費が不足することはない。後は、プリンスコースが目指しているような不動産を売るためのコースではなく、純粋なプライベートコース。メンバーの数に応じて、月々決まったお金が入ってくるので計算が立つ。
そのプライベートも今は柔軟に会員を集めており、マウイ島にある「キングカメハメハ」というコースはなかなかクリエイティブ。通常の正会員も自分の居場所をハワイに作れる、あるいはステータスを築くということに加えてコンサートやディナーショーを楽しめることで人気だが、短期間滞在する人のために年間20ラウンドという会員権も販売されている。さらには40歳以下向けの"ジュニア"会員権もあって、若いファミリーも楽しめる。いずれも世界各国のエグゼクティブと交流できるというメリットがあるだけに注目度が高い。
ちなみにキングカメハメハのクラブハウスは米国の著名建築家で、日本の旧帝国ホテル新館を設計したことでも知られるフランク・ロイド・ライトの作品。もともとは49年にテキサス州フォートワースの富豪の邸宅のためにデザインされたものだそうだが、使われずに残っていたものが88年、日の目を見ることになった。06年、現オーナーによって改装され、コースの名前もハワイ王国初代国王にちなんで「キングカメハメハ」となった。クラブハウス内にはハワイの美術品も展示され、美術館のような落ち着いた空間をメンバーらは味わえる。
話をゴルフコースの維持管理に戻すと、マカイコースの場合、プライベートコース以上に力を入れる。
合宿初日。コースを案内してもらいながら、中島さんと海越えの7番ショートホールのティーグラウンドに立ったときだった。グリーンを狙う分には何の問題もないところに1本の木が伸びていた。言われなければ気付かないような高さだが、「これもいずれ切らないといけないでしょう」と中島さんは話した。
「ただ、この崖下へどう降りていくか、さらに切った後、どう持ち上げて処理するかです。切ったままというわけにはいきませんから」
単に木を切るだけではないので、そのコストはおそらくそれなりにかかる。が、中島さんはこう続けた。
「このホールのこの景色にお客様は200ドル、300ドルを払っていらっしゃいますから」
別の日、再び中島さんとカートに乗って11番のグリーンまで来たときだった。管理マネジャーのマット・バックマンさんがグリーンに棒のようなものを刺している。中島さんに尋ねると、「あれはグリーンの水分量を測っているんです」と教えてくれた。
「アリゾナのように雨が降らないなら、均等にスプリンクラーで水をまけばいい。ただここは雨も降る。グリーンの水分量を一定に保つためには、手で水をまく必要がある。その調整のために測っているんです」
20%以下なら、夜になるのを待って水をまく。16%以下ならその場で水をまく。これは相当な手間だ。それから少ししてハワイ島のゴルフ場も見にいったが、朝、スプリンクラーでグリーンに水をまいていた。グリーンを触ってみる。低いところと高いところでは、手で感じる水分量に差があった。
水が高いところから低いところに流れるのは当然のこと。すると、グリーンの低いところは、水がたまりやすい。逆に高いところは早く乾く。その差を一定にするには手動で水をまくしかなく、人手が足りなければスプリンクラーに頼るしかないが、そんなところにコースの良しあしが出る。
脱線するが、マカイコースのスプリンクラーシステムがユニークだ。リゾート内で出る生活排水が浄化された後、マカイコースに併設されている9ホールのウッズコースの池にためられる。その水をスプリンクラーに使っているのだ。
「ハワイの場合、海に流していい水にも規制がありますから。再利用してます」
さて、グリーンの水分量の話をした後、中島さんはバンカーの上に向かった。そしてそこを見ながら、こんな話をした。
「だいぶ、盛り上がってきてしまいましたねぇ」
バンカーからグリーンに向かっては、通常下りになっている。それはしかし、そうデザインされたわけではない。長年、バンカーに入れたゴルフファーが、ボールを出すのと一緒に砂も出してしまう。そうすると長い年月をかけてあごの部分が盛り上がっていく。
「まだ、(開場して)6年なんですけどね。それでもこれだけのマウンドができてしまう」
海越えのミドル、14番ホールまで来た。
11年に初めて回った時は、ワンオン(ホワイトティー、288ヤード、追い風)したと付け加えておきたいが、このグリーンに来たとき、中島さんが1カ所を手で触り始めた。ほかとはやや色が違う。
「ここは、バミューダ芝が入り込んでしまったんですよ。そこを切り取って、シーショアに張り替えたんですが、ようやくなじんできたようです」
グリーンに違う芝が生えてくることは多々ある。そうすると、グリーンがまだら模様となる。10年、ペブルビーチ・ゴルフリンクスで行われた全米オープンのグリーンが汚いと話題になった。確かにあのとき、色がまだらになっていた。そうした原因としては、ゴルファーのスパイクが原因であるケースがある。
例えばラウンド中、ゴルファーは知らず知らずのうちに芝生の種をスパイクの裏に付けている。ホールアウト後、きれいにしないで次に違うゴルフ場でプレーすると、前のゴルフ場の芝の種をまき散らすことになる。結果として、グリーンなどに違う種類の芝が生えてしまう。これはマナーとして覚えておきたいところ。
ここまでは維持管理の雑学を紹介して来たが、ハワイのトレンドについても少々。
今、ゴルフボードが全米のゴルフ場に波及しつつある。ロングスケートボードのような乗り物の前方にハンドルとバックを置くスペースがあり、体の体重移動で左右に曲がる。
プリンスビル・リゾートに近いハナレイに住んでいる人がアイデアを出し、開発中はマカイコースでテストを重ねたとのこと。ハナレイはサーフィンの街としても知られるが、そこにゴルフボードの着想がある。乗らせてもらったが、要領を覚えてしまえば操作は簡単。いろんなコースが徐々に導入している理由も分かる。
カートと比べて、より歩いて回っている感覚に近いが、実のところ最近は歩いて回るという人も増えているのだそうだ。健康にもいい。コースの美しさなど、歩いているからこそ感じられることも多い。
次にマカイコースへ行ったときには、歩くか、ゴルフボードで回ってみたい。そしてじっくり、ロバート・トレント・ジョーンズJr.が作り上げた芸術を堪能したい。
最後に結果発表である(最終日は94年から06年までPGAグランドスラムが開催されていたポイプ・ベイに遠征した)。
・1日目 練習ラウンド
・2日目 87(44、43)
・3日目 95(51、44)
・4日目 91(45、46)
・5日目 93(45、48)
まあ、今の実力ならこんなもの。バックスイングを意識し始めたのは3日目ぐらいから。前に進むために少し後ろに下がって助走をつけようとしている――と解釈している。
ドライバーが当たってもドライブがかかりすぎて、220~230ヤード止まり。これでは第2打が170~180ヤード残ってしまうためパーオンの確率がガクンと下がる。
こうなるとアプローチ勝負だが、あのときはまだ自信がなく、ワンパット圏内には止められなかった。ただ、アプローチを12~13回打って、そのうち5回がワンパットなら中島さんがいうように、アプローチ次第で5打は縮まるのではないか。
80を切るならドライバーで250ヤードは稼いで、第2打を7番アイアン以下で打ちたい。飛ばないのならアプローチがカギを握る。これは多くのアマチュアゴルファーに通じる課題ではないだろうか。
最後に今回、中島さんをはじめ、マカイコースの皆さんにいいろいろとお世話になり、感謝してもしきれない。プリンスビルの大自然のなか、ゴルフを堪能させていただいた。
今回、80は切れなかった。ただ今年こそは定期的に練習し、来年再チャレンジしたい。現在、マカイコースにヘッドスイング、初速、スピン量といったスイング解析、また飛距離など瞬時に弾道解析ができる「トラックマン」も導入されているので、次回はそうした科学的アプローチも試みたい。
なお、マカイコースでは、ゴルファーの様々なニーズに応えてくれる。通常のレッスンもあり、ゴルフ合宿のメニューづくりあり。興味のある人はぜひ=取材協力 プリンスビル・リゾート・マカイコース
(スポーツライター 丹羽政善)