居並ぶ海外強豪もなんの…ゴルフ武藤、自信膨らむV
編集委員 吉良幸雄
招待選手は2011年マスターズ王者のシャール・シュワーツェル(南アフリカ)や13年全米プロ選手権覇者のジェーソン・ダフナー(米国)、最新の世界ランク28位のイアン・ポールター(英国)ら豪華メンバーがずらり。新規開催の異色トーナメント、ISPSハンダグローバルカップ(6月25~28日、山梨県ヴィンテージGC、6774ヤード=パー71)は武藤俊憲(37)がアンジェロ・キュー(フィリピン)とのプレーオフを制し、12年関西オープン以来、3年ぶり6勝目をマークした。
■プレーオフ2ホール目で決着つける
最終日、4組前のキューが64をたたきだし通算14アンダーで先にホールアウト。首位発進した武藤はやや出入りの激しいゴルフで、ボギー直後の16番を迎える時点では2打追う立場になっていた。しかし16番で20メートルの長いバーディーパットをねじこみ、17番の3メートルのパーパット、18番は5メートルのバーディーパットを沈め、キューに追いつく。プレーオフでは1ホール目でティーショットを左林に打ち込みながらパーとしてキューと分け、2ホール目にバーディーを奪って決着をつけた。
優勝翌日に改めて勝因を尋ねると「奇跡的な、大事なパットが入ってくれた。勝つ時はこんなものでしょうか」と話した。そうだろう。昨秋の三井住友VISA太平洋マスターズでは18番で1メートルのバーディーパットを外し1打差の2位に敗れた。「プロは勝ってナンボ」と悔しさをかみ殺した姿が印象に残っている。日本シリーズJT杯(3位)まで終盤4試合連続でトップ10入りしたが、胸中では複雑な思いが渦巻いていた。
昨季からミズノと用具使用契約した。ショットメーカーにとっては、定評あるアイアンなど老舗メーカーのクラブは大きな武器になる。かなりの意気込みでシーズン入りしたが、よりによって「ホスト大会」のミズノオープン(5月)で左足首靱帯断裂の重傷を負った。手術は回避したものの、治療とリハビリに2カ月を費やし、8月の復帰戦(KBCオーガスタ=3位)まで穏やかならぬ日々を過ごした。
■ボールなどを元に戻して完全復活
故障した左足を無意識のうちにかばっていたせいだろう。今季はずっと右股関節に違和感を感じていたらしい。5月の日本プロ日清カップヌードル杯ではプロアマ戦でショットが乱調。初日は2位と好発進したものの60位と崩れた。今回の優勝前の2試合も予選落ちしていた。
「朝起きるとあっちが痛い、こっちが痛いと。体の使い方がよくなくて腰に張りがあった」と秋山武雄トレーナー。しかし5月初めに替えたボールなどを元に戻したことで、ショットのイメージも変わったからだろうか。秋山トレーナーは「体のバランスが良くなり、楕円のラグビーボールが丸いボール、球体になった感じ」と完全復活に太鼓判を押す。
武藤は「(1アンダーの)前半、みんなが伸ばしていくのを横目に耐えられた。グリーンは硬く、バーディーとボギーは紙一重だったが、いい具合に自分をコントロールできた」という。過去5勝のうち4勝は8月以降の大会だけに「早いうちに勝てて良かった。2勝目、3勝目を目指します」。
4位のポールター、10位のシュワーツェルらを抑え「ホームだし、日本人にもうまい選手がいるというアピールになったと思う」と自信を膨らませたようだ。初日6位発進した3年前の全英オープンのように、今後は日本だけでなく海外でも活躍してもらいたい選手の1人である。
■世界のトッププロ15人参加の新大会
意外な伏兵も健闘した。29歳のノーシード、小池一平が4位と自身初のトップ10入りを果たした。山梨学院大出身で、コースから車で30分の山梨・甲斐市在住。「地の利」を生かした形で、今後の戦いに手応えをつかんだだろう。
今大会には米国、欧州、オーストラリア、アジア、南アフリカツアーから15人のトッププロが参加した。シュワーツェルやポールターら有名選手を招くには2000万~3000万円のアピアランスフィー(出場料)がかかるのが相場。今回はおそらく賞金総額(1億円)以上の大金がアピアランスフィーとして支払われたものとみられる。彼らの中には前週の全米オープン(チェンバーズベイGC)に出場した選手も多く、激闘の疲れや時差ボケもあっただろうに、全米オープン7位のシュワーツェルらは、それなりに実力を発揮した。
「井の中のかわず」「ぬるま湯」とも揶揄(やゆ)されるひ弱な日本勢、特に若手選手にとっては世界の強豪を目の前で見られたのは得がたい経験になったはずだ。予選ラウンドではギャラリーバスが運行されないなど交通の便が悪く、ギャラリー数は4日間で計5121人(最終日は2511人)と寂しかったのは残念とはいえ、来季以降も継続開催されればいいのだが……。