女子ゴルフの勝みなみ、母とつかんだアマ日本一
27日まで5日間にわたり北海道札幌GC輪厚(6401ヤード、パー72)で開かれたゴルフの日本女子アマチュア選手権を制したのは、16歳の勝みなみ(鹿児島高)だった。昨年4月に15歳で国内ツアー最年少優勝を果たした前途有望なジュニア世代の一人。本人の才能と努力に加え、周囲のサポートもなければアマ日本一の栄冠には手が届かなかった。とりわけ、キャディーを務めるなどコース内外で支え続けた母、久美さんの存在は大きい。
■V決定の瞬間、母は状況把握できず
大会決勝は36ホールのマッチプレーで勝者を決める長丁場。5アップとリードして迎えたパー4の31ホール目だった。勝はカップまで2メートルのフックラインを読み切ってバーディーを奪い、さらに6アップとした。残り5ホールを相手が取っても追いつくことはできず、6アンド5で大会初優勝が決まった。
グリーン上で何度もガッツポーズをする勝。ところが、その傍らにいた久美さんは一人状況を把握できずにいた。「このホール、娘が絶対に取りたいと言っていたので、やけに気合が入っているなと思っていましたが……」。苦笑いしながら「すみません。目の前の一つ一つのプレーのことしか見えていませんでした」と付け加えた久美さんの言葉は、実は勝の今大会の状態を的確に表していた。
23、24日にそれぞれ18ホールのストロークプレーで予選ラウンドを戦い、上位32人が25日からの決勝トーナメント(18ホールのマッチプレー)に進んだ。予選ラウンドで勝はショットが曲がり、パットもなかなか決まらずに苦戦していた。一時は通算1オーバーまでスコアを落とし、決勝トーナメント進出が危ぶまれたほどだった。
決勝トーナメントに入ってもなかなか調子が上向かなかった。25日の1回戦では18ホールで決着がつかず、エクストラホールの19ホール目までもつれ込んだ。2回戦は最終ホールにパーを拾って辛くも逃げ切った。
■かつてない長期遠征、そばで支え続け
翌26日の準々決勝では最終ホールにバーディーパットを決め、粘る相手を振り切った。土壇場で勝負強さをみせたが、どの対戦もどちらの選手が勝ってもおかしくない内容だった。集中力が途切れずに最後までプレーすることがカギを握るマッチプレーで、キャディーとして娘を支えた久美さんは目の前の一打に集中し、先を見据える余裕を持てなかったのだ。
勝が本調子にほど遠かった背景には連戦による疲れもあった。7日に自宅のある鹿児島を出て、ツアー2試合を転戦。全米女子オープン最終予選会にも出場し、日本女子アマ選手権のため札幌に入った。「これほど長い期間、鹿児島を離れたのは初めて」と勝が振り返ったほどだった。
その間、そばに付き添って支え続けたのが久美さんだった。大会でキャディーを務めたのは決勝トーナメントに入ってから。勝は以前、母の存在についてこう語ったことがある。「ホールとホールの合間も鹿児島弁で、普段のリズムで会話をでき、何より落ち着きます」
コースでは二言、三言、互いに言葉を交わすだけだが、久美さんは様々な役割を演じている。プレー中、ショットが乱れていら立ちが募った娘の不満の受け皿となる。緊張しそうな場面を迎えれば「気楽に、気楽に」とひと声かけ、ミスショットをしたら「ここからだよ」と励ます。
■ホテルで娘の体を入念にマッサージ
グリーン上では一緒になってパットのラインを読む。「私にはラインのことはわからない。でも、懸命にやっている姿を見せないと娘の機嫌が悪くなりますから」と笑う。そのあたりのことは勝も承知しているようで、「私がここはスライスラインだよねと聞いても、そうだねとしか答えが返ってきませんが……」。
久美さんはコースの外でも娘をサポートする。大会期間中にはホテルに戻って入浴を終えると、連戦で疲れがたまった足の裏やふくらはぎ、腕、腰などを入念にもみほぐすという。「娘は横になったら、わずか1秒で眠っていますよ」
積極果敢にコースを攻め、随所にプロ顔負けのプレーを見せる勝。好不調の波を経験しながらもこの1年余り、プロの大会でもまれて成長し、アマ日本一という栄冠に輝いた。優勝後、家族をはじめ自分を支えてくれる周囲への感謝を語る姿が印象的だった。心技体の成長著しい高校2年生が今後さらに大きな飛躍を遂げる契機になるかもしれない。
(磯貝守也)