三井物産、米微生物ベンチャーとエタノール生産
製鉄所の副生ガス活用
2014年3月、米ベンチャーに2000万ドル出資
微生物によるガス発酵技術を持つのはランザテック(イリノイ州)。2005年設立で、バイオテクノロジーが盛んなニュージーランドが発祥の地だ。三井物産は増資を引き受ける形で14年3月に2千万ドル(当時の為替レートで約20億円)を出資した。新規事業育成のために三井物産が12年秋に創設した「イノベーション推進案件制度」の第3号案件だった。
「エネルギーの主流は石炭、石油、天然ガスだが、CO2排出や資源枯渇の問題で将来は割合が減る。エネルギー事業の比重が大きい三井物産として、これを補完する事業が必要だ」。エネルギー第二本部の宮沢和政・天然ガス第四部長はこう強調する。風力・太陽光発電、バイオマス、水素など幅広い分野で事業機会を探る中で、微生物発酵技術にたどり着いたという。
端緒は08年。オーストラリアの現地法人がニュージーランドに拠点を置いていたランザテックの情報を得て、接触した。その後、11年に傘下のシンクタンク、三井物産戦略研究所が同社と情報交換と協業の可能性を検討する覚書を結ぶ。12年にはシリコンバレーの米有力ベンチャーキャピタル(VC)のコースラ・ベンチャーズから別ルートで紹介を受け、三井物産はランザテックの将来性に確信を得る。
微生物によるガス発酵ではエタノールや合成ゴム原料となるブタジエンを作ることが可能になる。現在はガス中に含まれるCOから転換するが、将来的にはCO2からの転換も可能という。宮沢部長は「化学触媒を使う通常の生産工程よりも、圧力や熱などのエネルギー投入量を抑制できる。さらに不純物に強いという利点もある」と説明する。
中国・宝鋼集団が商業生産プラント建設へ
すでに中国の鉄鋼大手、宝鋼集団や首都鋼鉄集団などの拠点で実証実験が完了。まもなく宝鋼集団が2016年内の稼働を目指して、商業生産プラント建設を最終決定する見通しだという。製鉄の生産工程で発生するガスを利用し、年間2万2500トンのエタノールを生産する見込みだ。ランザテックは技術供与によるライセンス収入を得る形となる。欧州、台湾、インドの製鉄所でも検討しており、三井物産とランザテックが共同で投資することも検討する。
三井物産はランザテックに非常勤の取締役を派遣し、マーケティング活動を支援している。当面はガソリン添加剤としてエタノールを売り込む計画だが、今後は環境規制が厳しくなるジェット機燃料としての利用も有望だ。
地球環境問題が深刻になる中、新エネルギーを巡る技術開発競争は激しくなる。総合商社としては技術を保有しないが、資金力を生かしてどれだけ有望な技術に出資できるか。エネルギー事業に強みを持つ三井物産の選球眼が問われる。
(企業報道部 鷺森弘)
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