我こそ次代の旗手 手本は前田に金子…阪神・藤浪、貪欲にエースの心得
スポーツライター 浜田昭八
阪神・藤浪晋太郎はプロ入り同期、二刀流の日本ハム・大谷翔平を特に意識しないという。2012年春・夏の甲子園大会で連覇した大阪桐蔭高のエース。そのとき、春の1回戦で大谷が4番でエースだった岩手・花巻東高と対戦し、9-2で退けた。同年夏に藤浪は歓喜の連覇を遂げたが、大谷は岩手大会で敗れて甲子園再訪を果たせなかった。
■藤浪と大谷の状況、2年目に一変
プロ入り後、1年目の藤浪は10勝をマークしたが、大谷は投手で3勝、打者で打率2割3分8厘、3本塁打。二刀流で話題を集めたが、チームの力になったという点では「オレが上」と藤浪が思ったとしても不思議ではない。新人王はヤクルト・小川泰弘に譲ったが、藤浪はリーグを盛り上げた功績を認められて、「新人特別賞」を受賞した。だが、2年目の14年には状況が一変した。
大谷は投打二刀流を軌道に乗せた。投手で2完封を含む11勝4敗、防御率はリーグ3位の2.61、打者としても規定打席不足ながら打率2割7分4厘、10本塁打を記録した。
藤浪も11勝8敗。メッセンジャー、能見篤史と並ぶローテーション3本柱の一角で奮闘した。高卒新人投手として2年連続2桁勝利は00年の西武・松坂大輔以来、セ・リーグでは1968年の阪神・江夏豊以来。そんな輝かしい成果も、大谷の「同一シーズンに2桁勝利、2桁本塁打をマークしたのは、ベーブ・ルース以来」という派手な話題の前では影が薄かった。
■研究熱心で高い修正能力が長所
「2年目のジンクス打破」を心掛けてスタートした14年だった。課題にしたのは「夏場以降にも勝つ」ことと、分が悪かった「左打者対策」だった。このほか、故障につながる恐れがあり制球の乱れの原因にもなるインステップする投球フォームを直すのも、技術的な課題に挙げていた。
完璧ではなかったが、課題はほぼクリアしたといえる。夏場以降に勝てなかったのは体力不足が原因。バテないように、オフから体力強化に努めてきた。左打者に分が悪いといっても、「左方向へちょこんと合わされた当たりが多かった。右方向へ強打された感じはない」と強気だった。そう言いながらも、二刀流の大谷に投手部門でわずかながらも後れをとったのに、かすかな屈辱を感じていたことは隠せなかった。
藤浪の優れた点として首脳陣や同僚が挙げるのは、研究熱心で修正能力が高いことだ。チームの先輩から学ぶだけでなく、他球団の主力投手からも熱心に「取材」した。オールスター戦や日米野球に出場したときは、オリックス・金子千尋からチェンジアップ、広島・前田健太からツーシームの使い方を学んだ。
■変化球の精度上げ、完投数を増加へ
大谷とのスピード競争に後れをとったから、変化球投手に変身しようというわけではない。基本はストレート勝負という考えに変わりはない。ただ、先発ローテの一角を担う投手として、スピードを誇示するだけの投球はできない。阪神の救援陣の中核を占める福原忍、安藤優也らの老化は避けられない。藤浪に求められるのは1年目ゼロ、2年目2試合だった完投を増やすこと。そのために投球の幅を広げる変化球の精度を上げようと考えているのだ。
それと同時に、金子やマエケンから「エースはいかにあるべきか」という姿勢を学び取ろうとしている。1月14日からは、マエケンに頼み込んで自主トレを一緒に行った。これまでは、能見らの後ろについていけばよかった。これからは岩崎優、松田遼馬、ドラフト1位新人の横山雄哉ら同世代の若手投手を引っ張る立場に立つことが求められる。
■日本球界のエースへの飛躍も期待
そればかりか、日本球界のエースに飛躍することも期待されている人材ではないか。20年の東京五輪に野球が正式な競技種目として復活する可能性が高い。20歳の藤浪は26歳の日本のエースとして、日本代表の先頭に立たねばならない。和田豊監督は「藤浪は舞台が大きくなるほど力を出す」と、日の丸を背負った藤浪の活躍を早くも期待している。
昨年末の契約更改で推定年俸は8500万円に跳ね上がった。少し遅れて行われた日本ハムの契約更改で、大谷は「1億円」になったと明言した。年俸でも差をつけられた。だが、ライバルとの年俸争いという次元にとどまっている場合ではない。阪神の優勝、野球界の発展へ向けて、藤浪の肩にかかる期待は果てしなく大きい。