我こそ次代の旗手 二刀流に磨き 日本ハム・大谷、2年目の飛躍
スポーツライター 浜田昭八
日本ハム・大谷翔平は「持っている男」だ。チームメートの斎藤佑樹がそう呼ばれていたが、注目されると一層輝く「華」があるという点では先輩を抜いた。
7月5日、千葉・QVCマリンでのロッテ戦で「3番指名打者・大谷」は、2本の2ランホーマーを放って勝利に貢献した。この日は大谷の20歳の誕生日。ファンの「ハッピーバースデー」の大合唱が響く中での快挙だった。
■大リーグ関係者、こぞって注目
その4日後には、仙台・コボスタ宮城での楽天戦で、投手・大谷は4安打1失点の快投で8勝目を挙げた。毎回の16三振奪取のおまけ付きだったが、本人は「無四球(1死球)で完投し、2-1の接戦に勝てたのがうれしい」と言った。
日本ハム入団が決まるまで、大リーグ入りを熱望していた。大リーグ関係者はこぞって注目している。この楽天戦も元日本ハム監督、現ヤンキース育成担当特別補佐のトレイ・ヒルマン氏が観戦した。「ダルビッシュ有、田中将大の2年目より上。速球に威力があり、緩急交えた配球もいい」と絶賛した。許されるなら、今すぐに連れていきたいと言わんばかり。
大谷が望んだ通りに、1年目から「投打二刀流」を続けている。体力的にも精神的にも負担が大きいから、投打のどちらか1本に絞るべきだという声が多い。7月19日のオールスター第2戦で球宴史上最高の162キロの快速球を披露したことで、「早く投手1本に」という声が一層強まった。だが、本人は「打撃にも魅力があるし、備えも怠っていない」と穏やかに話した。
春の沖縄キャンプでは、投手にやや重きを置いたような調整だった。日本ハムは2012年のリーグ優勝のあと、昨季は最下位に転落した。投手は一人でも多く欲しい。右投げ左打ちの大谷が打者になって打席に立つと、利き腕の大事な右腕に死球を食うかもしれない。栗山英樹監督は真剣にそれを恐れた。
とはいうものの、長打力があり、2割7、8分の打率をコンスタントに残す大谷のバットを生かさぬ手はない。陽岱鋼、中田翔、指名打者大谷で組むクリーンアップは、実に魅力的だ。しかし、投手・大谷の登板、調整、休養の問題があり、残念ながら全試合では組めない。
今のペースでいくと、投手・大谷は規定投球回をクリアし、最多勝、防御率、投手勝率、三振奪取のタイトル争いに加わりそうだ。1年目は高校時代からのライバルで、10勝をマークした阪神・藤浪晋太郎に後れをとったが、2年目はリードしている。打者でも準レギュラー級の働きをしているから、1500万円の差をつけられた推定年俸(藤浪4500万円、大谷3000万円)でも逆転しそうだ。
■周囲は興奮、本人は至って冷静
ただ、投手・大谷は前半戦最後の7月16日に9勝目をマークしたが、後半戦は低迷した。「高卒2年目、投打二刀流を続けながら2ケタ勝利」という、画期的な記録に挑戦したが、4度続けて失敗。「ちょっと疲れている」と栗山監督も、起用法の変更を考え始めていた。
その直後の8月26日、福岡・ヤフオクドームでのソフトバンク戦で5度目の挑戦に成功した。強力なソフトバンク打線を、7イニング1失点に抑えた。野手でも20試合以上出ている投手が2ケタ勝利を挙げたのは、1950年の野口二郎(阪急)以来64年ぶりと周囲は興奮した。だが本人は「カードの頭に起用され、勝てたのがうれしい」と冷静に話した。さらに、2日後の28日には5番指名打者で出場、7号ホーマーを放って二刀流健在をアピールした。
パの優勝争いはソフトバンク、オリックスの2強に絞られた。残り試合とゲーム差からみて、日本ハムは3位でレギュラーシーズンを終えそうだ。クライマックスシリーズ(CS)では、投手・大谷もフル稼働しなければならない。
■大リーグへ向かう気持ち変わらず?
さらに、首尾よく日本シリーズ出場となれば、6月4日のセ・パ交流戦、札幌ドームでの広島戦に「7番投手大谷」でオーダーに名を連ねたときのようなこともあるだろう。広島のエース前田健太と投げ合い、逆転の口火の二塁打を放って5勝目を挙げたのだ。
ただ、本人も球団関係者も口をつぐんでいるが、大リーグへ向かう気持ちに変わりはないとみられる。二刀流での大活躍は実に喜ばしい。だが、日本球界を背負って立たねばならないヒーローが、やがていなくなるのではないかと思うとさみしくなる。
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