好調ソフトバンク支える柳田 強打者の素質開花
自慢の強力打線がパ・リーグ断トツのチーム打率2割8分7厘と看板通りの実力を発揮し、首位をひた走るソフトバンク。リーグの3割打者7人のうち5人を占める豪華な布陣にあって、見逃せないのが5番打者、柳田悠岐の成長だ。今年のオールスター戦でも本塁打を放ったプロ4年目の25歳はここまで、打率3割2分2厘(リーグ2位)、60打点(同3位タイ)をマーク。強打者としての素質を開花させている。(記録は17日現在)
■球宴で一発含む4安打、名を全国区に
本塁打は13本(リーグ8位タイ)ながら、身長188センチの左打者が鋭いスイングで繰り出す打球の飛距離は群を抜く。高い放物線を描きポンポンとスタンドに届く試合前のフリー打撃には、相手チームの主軸打者からも感嘆の声が上がるほど。
6月28日の西武戦で右中間に放った特大の一発は、スタンドを覆う西武ドームの屋根の下をすり抜ける珍しい"場外弾"に。7月19日のオールスター第2戦(甲子園)では、六回に外角低めの直球を鋭いライナーでバックスクリーン左へ運ぶなど4安打の固め打ち。球宴初出場にしてMVPを獲得、ど派手な活躍でその名を全国区にした。
重心を左の軸足に残したまま、大リーガーのようにアッパーカット気味にフルスイングする豪快さと、体に巻き付いたバットがまるでムチのようにしなる柔らかさを兼ね備えた打撃は、逆方向の左翼へも強くて大きな打球を飛ばせるのが特徴だ。7月29日の13号の後、17試合も一発から遠ざかっているが、本人は「本塁打にはこだわっていない。とにかく球を思いっきりたたくことを考えている」と話す。
投球に少しばかり差し込まれても、球足の速いゴロは簡単に内野手の間を抜けて安打になる。ヒットの延長線上にホームランがあるとの考えが、現在の高打率につながっているともいえる。
■消えつつあるボール球に手を出す悪癖
好調のもう一つの要因は、ボール球に手を出しては凡退していた悪癖が影を潜めつつあることだ。「ヤマは張らない。真っすぐを待ちながら、すべての球種に対応するようにしている」といい、低めの変化球の見極めができるかどうかが生命線。「打席で構えるときに背筋を真っすぐ伸ばすように」などと投球に対する目の付け方に工夫を凝らし、弱点を改善しようとしている。
リーグワースト4位の99三振を喫しているものの、藤井康雄打撃コーチは「追い込まれたカウントから逆方向にはじき返せているし、柔軟に対応できている。以前とは考え方が変わった」と成長の跡を認めている。
松田宣浩、本多雄一ら主力が相次いで負傷離脱しても、層の厚い野手陣でカバーして、その穴を感じさせなかったソフトバンク。とりわけ大きかったのが、打の柱といえる内川聖一が右大臀筋(だいでんきん)の肉離れで5月下旬から約1カ月チームを離れた間、ほとんどの試合で3番打者を任された柳田の働きだ。
■走攻守の3拍子そろい、積極プレー
セ・パ交流戦は、規定打席到達者でトップの出塁率4割8分2厘を誇り、打率3割7分1厘、20打点(ともに2位)と、6個の貯金を稼いだチームに大きく貢献。藤本博史打撃コーチは「ステップを飛び越えてホップ・ジャンプと来ている。このまま突き抜けていってほしい」と大きな期待を寄せた。
内川が戦列復帰してから打順は5番が定位置となっているが、強肩と広い守備範囲が売りの中堅の守り、リーグ4位の24盗塁をマークしている足と「走攻守」の3拍子がそろったプレーヤーとして首位のチームをがっちり支える。
最大の持ち味ともいえる積極性が生きたのが、延長十回サヨナラ勝ちで7カード連続の勝ち越しを決めた8月14日の楽天戦(ヤフオクドーム)だ。
1点を追う八回2死一、三塁、スイッチしたばかりの左腕、金刃憲人のファーストストライクを見逃さず、右前に貴重な同点適時打。さらに十回は1死から、左腕片山博視の代わりばな、初球のスライダーを右前打にすると、次打者の3球目に「アウトになったらしょうがない。思い切ってスタートした」と二盗に成功した。得点圏に進んでプレッシャーをかけたことで、相手バッテリーは好打者の長谷川勇也を敬遠して勝負を避け、最後は追い詰められて連続四球で自滅した。
■将来のトリプルスリー達成にも期待
全てのプレーにおいて発揮される身体能力の高さは、オリックスの糸井嘉男に勝るとも劣らないといえるだろう。将来的には日本球界で史上わずか8人しか果たしていないシーズン3割、30本塁打、30盗塁以上の「トリプルスリー」達成への期待もかかるが、本人の頭の中は今、不動のレギュラーとして初めて経験するリーグ優勝争いのことでいっぱいのようだ。「俺は(優勝を)意識していますよ。ただ、結果はおのずと付いてくる。だから気負わずに、その日できることをやっていく」
15日からの2位オリックスとの直接対決3連戦では、右腕の金子千尋や西勇輝らから内角を直球やカットボール、スライダーでどんどん突かれる場面が目立った。弱点を研究され、徹底的に攻められるのは、怖い打者として存在を認められた証し。まずはそのハードルをどう乗り越えていくのか。大器の対応力が注目される。
(常広文太)
関連企業・業界