関西フィル、未来の巨匠に光 映画作曲家など登用
文化の風
関西フィルハーモニー管弦楽団が現代音楽で新境地を開いている。不協和音の多い難解な現代音楽を演奏する他のオーケストラとは一線を画し、調性を守りメロディーを感じる作品を多く取り上げている。特に最近は日本人作曲家の新曲初演に積極的だ。現代音楽の難しいイメージを打ち破り、未来の名曲を関西から生み出したい考えだ。
巧みな緩急魅力
2月11日、大阪市のいずみホールで行われた「バレンタインコンサート」。京都市在住の作曲家、林そよかの「ピアノ協奏曲第1番"Cosmos High"」を初演した。ピアノは人気ジャズピアニストの小川理子。3楽章から成り、ジャズを取り入れた軽快なサウンドだ。特に第3楽章はテンポの巧みな緩急がドラマチックに展開し、心地良い高揚感に包まれた。
林そよかは大阪府箕面市出身で東京芸術大学在学中にデビュー。既に8枚のCDを出している実力派だ。宝塚歌劇のファンで、歌劇のように多くの人に愛され共感される曲作りを目指す。「難しい理屈抜きに心に響く曲を作りたい。Cosmosのギリシャ語の語源には『調和』の意味もあり、小川さんの音楽と調和して無限の世界へ誘うイメージで作曲した」という。
林以外ではドラマや映画音楽で活躍する菅野祐悟と3回"共演"。昨年4月の第300回記念定期演奏会での「交響曲第2番"Alles ist Architektur"」は大成功を収めた。映画やアニメ音楽で知られる大島ミチルの新曲も2回初演。4月と5月の定期演奏会は新型コロナウイルスの影響で中止になったが、木島由美子「Pleuvoir~あめふり~」と吉松隆「『鳥は静かに…』作品72」をそれぞれ演目に入れていた。今後は世界的に評価の高い田中カレンの作品も検討中だ。
こうした作曲家を積極的に採用するのが首席指揮者の藤岡幸夫だ。「自分の感性に合い、調性を守る作曲家にチャンスを与えている。定期でモーツァルトやベートーベンと並んで演奏されることで、過去の傑作に負けない名曲を生み出してほしい」とエールを送る。
現代音楽の定義は様々だが、一般には20世紀初頭に始まり、戦後盛んになった伝統様式を脱却した音楽をいう。調性を否定し、不協和音を多用する前衛的音楽を指すことが多い。シェーンベルクが始祖的な存在となり、異なる複数の調性や荒々しいリズムを駆使するストラヴィンスキーが異彩を放った。数学の理論を用いたクセナキス、偶然の要素を取り入れたジョン・ケージらが登場。シュトックハウゼンは電子音楽による変調を試行し、日本では武満徹らが活躍した。
「現代音楽を否定しているわけではないし、素晴らしい曲もある。ただ、聴衆を選んでしまっていて、多くの人が何度も聴きたくなるような傑作が少ない」と藤岡。「若い作曲家が世に出るには現代音楽の世界で認められないといけないことが多い。これでは新しい才能が育たない。変えていかないと」と強調する。
聴衆を選ばない
こうした演目はファンの裾野も広げている。クラシックファンは一般に50代以上が多いが、第300回定期では30~40代の女性が多く、バレンタインコンサートでは20~30代のカップルが目立った。浜橋元専務理事は「当楽団にはオーギュスタン・デュメイ音楽監督の欧州正統派の世界と桂冠(けいかん)名誉指揮者、飯守泰次郎のドイツ音楽もある。藤岡の路線も大事な個性であり、3つの個性で幅広いファンを開拓したい」と話す。
関西フィルはBSテレ東の音楽番組に藤岡とレギュラー出演し、全国的知名度も上がってきた。今年は創立50周年。3つの個性で飛躍を目指す。(浜部貴司)
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