関西で実力会長が関わる人事相次ぐ 難しい引き際
関西で実力会長の関わる人事が続いた。大和ハウス工業は26日、樋口武男会長が退任し、取締役も外れて最高顧問に就くと発表した。25日には近鉄グループホールディングス(GHD)が任期5年での社長交代を発表したが、小林哲也会長は続投する。実力会長は内部を引き締めるタガにもなるが、権力を長く持ち続ければ組織はほころびが生じやすくなる。引き際の難しさはいつの時代も変わらない。
「中興の祖」の退任
樋口氏は創業者の石橋信夫氏から「創業100周年(2055年)に10兆円の企業グループを作ってくれ」と夢を託され、しゃにむに突き進んだ。01年の社長就任時に1兆円だった連結売上高を、社長・会長在任中の19年間に多角化とM&A(合併・買収)で4兆円に伸ばし「中興の祖」となった。体力自慢だったが81歳となり、最近は膝や腰の痛みを訴えることも多かった。6月26日付で最高顧問に就任する。
この数年、大和ハウスは賃貸アパートと戸建て住宅に不適切な柱や基礎を使っていた建築基準不適合や中国での不正流用など不祥事が続く。社内ににらみを利かせてきた樋口氏の衰えが影響したのではないか。
近鉄GHDは吉田昌功社長が近鉄不動産会長に転出し、後任にグループ企業の三重交通グループホールディングスの小倉敏秀社長を迎える異例の人事だった。交代発表前日の24日に今期の連結純利益を前期比58%減の150億円に下方修正しており、これがトップ人事の背景にあるのだろう。
会長は留任
近鉄GHDの前身の近畿日本鉄道には佐伯勇氏、上山善紀氏、山口昌紀氏ら大物会長が率いてきた歴史があり、伝統的に会長の力が強い。今回の人事も小林会長が主導したのは間違いない。小林氏は07年に社長に就き15年から代表権を持つ会長を務める。自らは留任するため、減益の責任は吉田氏が一人で負う形だ。
25日の社長交代の会見で「なぜ残るのか」という記者の質問に対し、小林氏は「近鉄GHDが完成形になっていない。私の不徳のいたすところだ。大体いいな、と思うようになれば退ける」と語った。小林氏は76歳。同い年である南海電気鉄道の山中諄元会長は既に特別顧問に退いている。
樋口氏は一線を退くが、関西にはまだまだ多くのベテラン実力会長がいる。ダイキン工業の井上礼之会長に「少しイレギュラーと映る近鉄GHDの社長交代をどうみるか」とたずねた。社長・会長の通算在任期間が26年で、85歳になったばかりの井上氏は「ちょっと考えにくい」と色々な解釈ができる一言を発して口を閉ざした。
(編集委員 竹田忍)