封鎖の武漢、半導体は生産 新型コロナ報告
世界で猛威を振るう新型コロナウイルスの発生源となった中国湖北省武漢市で、中国政府が封鎖措置の例外としている施設がある。国策半導体メーカーである紫光集団傘下の長江存儲科技(YMTC)の工場だ。市外から技術者が送り込まれ、製品の生産・出荷を続ける。海外への技術依存から脱して最先端半導体を国産化しようとする国家戦略が優先されている。
中国政府は1月23日から武漢を封鎖したが、YMTCの工場に向かう専門家を乗せた特別列車の運行はその後も途絶えていない。専門家らは到着後1週間の自主隔離を経て、工場への立ち入りが認められるという。
もともと工場には技術者300人が春節休暇の留守番役として残っていた。業界筋によると、技術者はYMTCの施設を離れることを禁じられ、1日10~12時間労働により工場の稼働を支えてきた。湖北省では学校や商店が閉鎖され、鉄道も停止したが、地方政府と中央政府は工場への材料の搬入や労働者の投入、完成品の省外への出荷に特別許可を与えた。
感染拡大のリスクを冒してまで生産を続けさせる背景には、半導体産業の育成への政府の強い決意がある。米国と対立を深めるなかで、自国企業の米国製品への依存を断ち切ることが最大の課題になっているからだ。
シンガポール国立大学のアレックス・カプリ上級研究員は「米国など海外の技術への依存は国家安全保障上の問題であるだけでなく、中国共産党政権の地政学的な野望の重大な障害になっている」と指摘する。
スマートフォン、パソコン、次世代自動車、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」技術で広く使用されるNAND型フラッシュメモリーのような製品は米韓日の6社が市場をほぼ独占している。中国企業による米半導体メーカー買収や出資の試みは米当局が安保上の問題を理由に阻止している。
中国政府は2014年、半導体産業育成のために1387億元(約2.1兆円)規模の巨大ファンドの設立を発表した。中国企業が使用する半導体について、20年までに40%、25年までに70%を国産化する目標を掲げた。武漢では紫光集団、湖北省とともにYMTCに240億ドル投じる。
YMTCの技術は世界の競合他社に少なくとも1世代は遅れている。それでも初の国産となる64層3次元NAND型フラッシュメモリーの買い手には華為技術(ファーウェイ)やレノボなどが名を連ねる。
中国の半導体業界に詳しいアナリストは、新型コロナウイルスの影響でYMTCの今年の生産量が計画を下回る可能性を指摘しながら、長期的な目標は達成されると予測する。「21年末までに、米インテルやマイクロン・テクノロジーなどにとって手ごわい挑戦者になりえる」という。
(台北=鄭婷方、黎子荷)
英文はhttps://s.nikkei.com/3b69S46
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