チーム盗塁数を3桁に オリックスコーチ・佐竹学(上)
宮崎でのオリックス春季キャンプの走塁練習。マウンドに立つ外野守備走塁コーチの佐竹学が、素早いターンから一塁にけん制球を投じる。けん制が巧みな他球団の投手を想定した実戦的な練習は、2019年にリーグ2位の122盗塁をマークしたチームの源だ。
もっとも、機動力が武器になったのは最近のこと。17年のチーム盗塁数はリーグ最少の33個だった。2軍ヘッドコーチとしてこの年を過ごした佐竹はシーズン終了後、2年ぶりに1軍外野守備走塁コーチに着任。早速、監督の福良淳一から指令が出た。「とりあえず100個走ってくれ」
同年は成功33に対し、失敗は23。56回という盗塁企画数自体、いかにも少なかった。「スチールというのは企画をしなくなればなるほど足が動かなくなる」と佐竹。悪循環を断ち切り、走る勇気を持たせることから任務は始まった。
サインが出ながら一塁走者が走れずにいれば、変化球が来そうな機を見計らい、一塁コーチスボックスから「次だ」と背中を押す。「君たちにアウト、セーフの責任を問うことはないから、走ろうという姿勢を見せてくれ」と言い続けた。
相手投手の映像分析では投球動作に入った瞬間、目で反応するだけでなく実際に体を動かすよう指示。蛇行のない中間走、減速しないスライディング、大きいリードからの帰塁といった技術の向上も図った。その結果、18年は福良が求める100に迫る97盗塁。10個以上盗塁をした選手が皆無だった17年から一転、安達了一(20個)ら4人が2桁盗塁を記録した。
監督が西村徳文に代わった19年も歩みは止めなかった。盗塁王4度の西村の要望は、経験では安達らに劣ってもスピードのある若手を「試合の中で使えるようにしていってほしい」。佐竹は、例えば代走の切り札として期待した佐野皓大を育てるべく、オープン戦の早い時期から「2死一塁で無理やり代走で使ってもらうなどしてきた」。
盗塁を試みる走者の姿勢をチームのスタッフと研究したところ、理想的な背中の角度が約45度であることを突き止めた。「福本豊さんやリッキー・ヘンダーソンもそうだった」と佐竹。呪文のように「45度だぞ」と野手陣に注意を促し続けたこの年、盗塁数はさらに増えて122に。走塁改革は着実に実を結んでいる。
盗塁技術が高い選手には、いつ走ってもいい「グリーンライト(青信号)」の特権が与えられる。佐竹が手を貸さずとも独力で配球を読み、ここぞの場面で走れる選手を多くつくる。"独り立ち"の手助けが今季のテーマだ。=敬称略
(合六謙二)