トラ飛躍のキーマン・2番近本 2年目の進化なるか
プロ野球阪神の近本光司(25)は新人だった昨季、36盗塁で盗塁王に輝き、シーズン159安打を放ってセ・リーグの新人最多安打記録を61年ぶりに更新した。塗り替えたのが長嶋茂雄(巨人)の記録とあって、熱心なファンを大いに喜ばせた。2年目の今季も矢野燿大監督から躍進のキーマンとして期待されている。
今季の阪神の開幕オーダーを予想するのは難しい。遊撃のレギュラーを同学年の北條史也、木浪聖也が激しく争い、三塁では大山悠輔、ジェフリー・マルテがポジションを争う。外野でも5年目の高山俊、新外国人のジェリー・サンズらが目をぎらつかせ、福留孝介、糸井嘉男の両ベテランに勝負を挑んでいる。
そんな中で矢野監督はキャンプ序盤から「2番近本」の構想を打ち出し、練習試合、オープン戦で経験を積ませている。捕手出身の監督らしく、近本のような俊足の選手が2番を打つのは守っている側から見ても嫌なもの、という発想からだという。
例えば一塁に走者がいて近本が打席に入る場合、犠打ではなく打たせるケースが多くなる。内野ゴロになっても俊足で併殺を防ぎ、塁上に残って盗塁からチャンスを広げられる可能性があるからだ。実際、昨季は142試合に出場し、640打席で併殺打は2つだけ。近本が塁上に残れば相手バッテリーも神経を使わざるを得ず、打者との勝負に集中できない状況も生まれる。
もちろん状況に応じて強打、進塁打、あるいはバントと、2番打者には小技を含めた対応力を求められるが、「チカ自身の野球のレベルが上がっていくプラス、チームにとってのプラスもあると思う」と監督は期待する。昨季も1番木浪、2番近本の新人コンビ「キナチカ」で開幕を迎えたが、今季は近本にさらなる成長を求めて構想の具体化を図りたいということだろう。
■スライディングは速く、強く
近本自身も走攻守のレベルアップに貪欲に取り組む。「2年連続盗塁王」を今季の目標に掲げるが、昨季は盗塁失敗も15回記録しており、成功率を高めることは課題の一つ。キャンプでは塁間の歩数を12歩から14歩に増やし、歩幅を狭めて回転数を上げることに挑戦した。
7日に甲子園で行われた日本ハムとのオープン戦では、七回の打席で四球を選んで出塁すると、次打者の2球目でするするとスタート。捕手の送球は二塁ベース上に来たが、スピードに乗ったままぐいっと左足を滑り込ませて二盗に成功。「スタートはあまり良くなかったが、スライディングは自分の中で良かった」とオープン戦での初盗塁を解説した。
塁間の歩数は「実は12歩に戻した」と打ち明けたが、回転を上げて走る「14歩の感覚を落とし込んだ」という。「スライディングはベースに近く、というより、速く、強くですね」。言語化が難しい自身の感覚を丁寧に説明するところに、研究熱心で実直な人柄が表れている。
近本は自身で感じたこと、考えたことをわりと率直に口に出し、説明してくれる印象がある。
キャンプ中の2月8日、初の実戦だった中日との練習試合。無死一、二塁で右中間への2点三塁打を放った場面では、初球にバントの構えを見せた。これを誘い水に2球目の直球をたたいたわけだが、意図をこう説明した。「1球見逃して、真っすぐが来ると思った。しっかり振り抜けた」「ちょっと(バント)したろかなと。ストライクだったらファウルでもいいかなと思った」
また、ここまでの実戦で示した長打力の進化については「力を入れないで軽く振ることを心掛けている」と説明し、さらに言葉をつなぐ。「強く振るのは難しい。力を入れても、なかなか思ったように打てない。それよりもバットをスムーズに出すことが大事」。体を動かす際の意識、考えを言葉で表現するのは難しいが、少しでもうまく伝えようという誠意をそこに感じる。
よく言われる「2年目のジンクス」は乗り越えられるのだろうか。「どこかで絶対、壁は来る」という近本だが、自らの課題と向き合い、成長しようという姿勢があれば、それほど心配することはないと感じさせる。阪神打線の得点力不足の解消は、近本の「2年目の進化」にかかっている。
(影井幹夫)