ゴルフ新リーグ構想、トップ選手巻き込み駆け引き
ゴルフジャーナリスト ジム・マッケイブ
1994年のことである。グレグ・ノーマン(オーストラリア)は、「ワールドゴルフツアー」という男子ゴルフの新しいツアー団体の設立を提案した。すでにテレビ局とも話をつけ、多くの選手の同意を取り付けた上でのことだった。
しかし、大御所のアーノルド・パーマー(米国)が反対したことで流れが変わり、結局は、立ち消えとなった。裏では、米ツアーのティム・フィンチェム・コミッショナー(当時)が必死にパーマーを説得したと伝わる。
あれから時代は変わり、米ツアーの財政基盤は安定し、好選手にも恵まれ、かつてない人気を誇るともいわれている。だが、そんな時代であっても、隣の芝は青く見えるものか。
このところ、ゴルフ界では「プレミアゴルフリーグ」設立の噂が、飛び交っている。
■年間18試合、賞金総額は260億円
米ツアーでもなく、欧州ツアーでもなく、英国に拠点を置くワールドゴルフグループが母体となって、世界のトッププロをしきりに引き抜こうとしているようだ。現時点でどのくらいの選手が合流するか不明だが、アーニー・エルス(南アフリカ)ら興味を示している選手はいる。
明らかになった話を総合すると、年間の試合数は18試合(メジャー大会は含まれない)。参加できるのは48選手。予選カットなし。3日間、54ホールの戦い。年間の賞金総額は2億4000万ドル(約260億円)で、目指すのは2022年の開始――。個人戦と並行して、チーム戦が行われる、という話もある。
しかし、94年がそうであったように、米ツアーとしてはいい気がしない。ジェイ・モナハン・コミッショナーは、プレミアゴルフリーグへ参加する選手は、米ツアーの参加資格を失うと警告している。
それでも賞金総額などを考えると、なびく選手も出てきそうだが、現在、世界ランキングトップのロリー・マキロイ(英国)などは「考えれば考えるほど、嫌な部分が見えてきた」と話し、消極的だ。
「お金を受け取ると、彼らはこうこう、こうしてくれと指示をするようになるだろう。お金を受け取らなければ、何にも縛られることはない。あいにく、いろいろ言われたいとは思わない」
1大会あたりの賞金総額が1000万ドルで、優勝賞金は200万ドルとされる。マキロイにはお金で選手を釣っているとも映っているようだ。
同ランク3位のブルックス・ケプカ(米国)も「お金じゃない」と話す。「(トップ選手はもう)引退するのに十分なお金を持っている」。ただ、こう付け加えた。「個人的には、世界のトップ選手と戦いたいだけ」。他のトッププロが移籍するなら自分も、とも聞こえ、賛成なのか反対なのか、真意を測りかねるが、多くの選手も、同様に様子見か。
それでも、どちらかといえば、否定的な選手のほうが多い。
かろうじて産声をあげても、今の状況では、好選手を確保するのに苦労するのではないか。仮に、多くの選手が世界ランク100位以上、いや150位以上の選手だったら、リーグそのものは成り立つのか。
ただそうした逆風の中、タイガー・ウッズ(米国)は、前向きとも取れる発言をしている。彼は、ワールドゴルフグループから接触があったことを認め、「他の選手と同じように、現実的なのかどうか、いろいろ情報を集め、検討しているところ」と話したが、必ずしも否定していない。
「もっと、トップ選手が一堂に会する機会があってもいい。世界ゴルフ選手権は、そうした経緯で生まれている。それまでは4回のメジャー大会と、プレーヤーズ選手権の計5回しか集まるチャンスがなかったから。そういう意味では、こういうアイデアが生まれたのも自然なことなのかもしれない」
ウッズにしてみればもはや、四大大会制覇にしか興味がないのだから、残りはどのリーグで戦おうと、大きな違いはないのかもしれない。
ただ、「俺は、降りる」とマキロイはすでに態度を明確にしている。彼は、パーマーになれるのかどうか。
前回、土壇場ではしごを外されたノーマンは「マキロイは、裏で操られている」と話し、米ツアーの工作を示唆するが、果たして真相は――。
いずれにしても今後、プレミアゴルフリーグを巡って、水面下での駆け引きが激しくなりそうだ。