トルコ利下げ シリア情勢緊迫でリラに下落圧力
大統領、本格的な軍事介入を示唆
【イスタンブール=木寺もも子】トルコ中央銀行は19日、金融政策決定会合を開き、主要な政策金利である1週間物レポ金利を年11.25%から0.5%引き下げ、10.75%にすると決定した。金利を1桁にするというエルドアン大統領の主張に沿った形だが、新型肺炎の流行による新興国通貨売りや、シリア情勢を巡る警戒感から通貨リラの下落圧力は高まっている。エルドアン氏は同日、シリアへの本格的な軍事介入を強く示唆した。
利下げは6会合連続となった。中銀は声明で、物価上昇の鈍化などを理由として挙げた。ただ、金利は既に足元のインフレ率(12%)を下回っており、拙速な利下げは、軟調のリラ相場をさらに押し下げる可能性がある。リラは発表後、対ドルで一時、前日比0.3%超下落した。
「軍事作戦は時間の問題だ」。エルドアン氏は同日、金融政策決定会合に先立ち、シリア北西部イドリブ県で本格的に軍事介入する用意があると明らかにした。
イドリブではロシアが後ろ盾になっているアサド政権軍がトルコの支援する反体制派を追い詰めており、2月にはトルコ軍と政権軍が直接交戦する事態にも発展した。トルコとロシアは事態沈静化に向け協議を続けてきたが、ロシアのラブロフ外相は同日、妥結に至らなかったと認めた。対話は続けるもようだ。
リラは2月に入り、下落を続けている。上旬まで1ドル=5.9リラ台で膠着していたが、足元では1ドル=6.0リラ台で売買されている。月初からの下落率は1%を超えた。
リラ安は、シリアで増大する地政学リスクに加え、新型肺炎で世界経済の減速懸念が高まり、新興国通貨全般にかかっている下落圧力によるものだ。
2018年の通貨危機「トルコショック」以降、通貨安に端を発するインフレや景気低迷に苦しんできたトルコでは、通貨安定のため国営銀行がリラを買い支えてきたが「買い支えきれずにじわじわと水準を切り下げている」(みずほ銀行欧州資金部の本多秀俊シニア為替ストラテジスト)。
18年の通貨危機を引き起こした対米関係の悪化もリラ相場の重荷となっている。トルコがロシアから地対空ミサイル「S400」を導入したことに米国は強く反発。トルコとの関係を重視するトランプ大統領は制裁の発動を猶予しているものの、米国はいつでも発動できる立場だ。
それでも中銀が利下げを続ける背景には、エルドアン氏の強い圧力がある。景気回復を急ぐ同氏は年内に政策金利を1桁まで下げるべきだと主張。19年には利下げ要求に従わなかったとして前中銀総裁を更迭するなど中銀の金融政策に公然と介入している。
トルコ大手証券会社のエコノミストは「通貨の安定を考えれば金利は据え置くべきだが、難しいだろう」と話す。市場では、1桁台の政策金利が実現するまで、据え置きを挟むことがあっても利下げが続くとの見方が支配的だ。