「助けてほしい」追い込まれたバイデン氏
「打倒トランプ」混戦(2)
9日、東部ニューハンプシャー州ハドソン。体育館に姿を現した前副大統領ジョー・バイデン(77)の顔からは覇気が失われていた。「ここに来られてうれしい」。演説最初の決まり文句でさえ、目線を下に落として台本を棒読みした。ポケットに左手を突っ込んだまま右手にマイクを持ち、弱々しく言葉をつないだ。「今日はとにかく、みなさんに助けをお願いするためにやって来た。助けてほしい」
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全米の世論調査で首位に立ってきたバイデン。上院議員と副大統領の職歴は40年を超え、中道派の本命だった。だが3日の初戦アイオワ州で4位とつまずき「みぞおちにパンチをもろに食らった」と弱音を吐いた。11日のニューハンプシャー予備選も5位。「たくさんの支持者と話ができて楽しかった」。短い声明を残し、開票を見届けず逃げるように同州を去った。
バイデン支持者も姿を消していた。3日夜、アイオワ州デモイン郊外での党員集会。「選挙区キャプテン」と呼ばれる支持者代表が熱のこもった演説で各候補への投票を呼びかけたが、バイデンの番になってもキャプテンが見当たらない。「誰がやりますか?」。司会者に促され、代役を務めたのは州外から応援に来た支持者だった。
一度狂った歯車は元に戻らない。バイデン陣営は8日、アイオワで躍進した前インディアナ州サウスベンド市長のピート・ブティジェッジ(38)をからかうビデオを公開した。「バイデンは自動車産業を救済し、中西部の経済を復活させた。ブティジェッジはおしゃれなレンガを敷き詰め、市街地の歩道を復活させた」。親子ほど年の離れた候補に露骨なネガティブ広告を繰り出すまで追い込まれた。
頼みの綱は黒人票だ。バイデンが早々とニューハンプシャーを見切って11日夜に向かった先は、29日に第4戦を開く南部サウスカロライナ州だった。
黒人が民主党員の6割を占める同州でオバマ人気は不動だ。オバマの盟友バイデンに黒人は親近感を持つ。1月の世論調査で黒人のバイデン支持率は48%と、2位の上院議員バーニー・サンダース(78)に28ポイントの差をつけた。人種が多様な3戦目のネバダ州以降に望みをかける。
「バイデンなら予備選を勝ち抜ける」。支持者のゴアム・ウェルク(60)は断言した後、こう付け加えた。「でも他の候補が選ばれても、必ず本選で投票する。トランプを倒せるなら誰でもかまわない」(敬称略)