「民主党が壊れる」 米大統領候補巡り偏る熱狂
「打倒トランプ」混戦(1)
11日深夜、米東部ニューハンプシャー州マンチェスターの大学体育館。「これが(大統領)ドナルド・トランプ(73)の終わりの始まりだ」。上院議員バーニー・サンダース(78)が民主党の大統領候補の指名争い第2戦の「偉大な勝利」を宣言すると、地鳴りのような「バーニー、バーニー」の大歓声が起きた。感極まった大学生ゴードン・ウォルス(21)も叫ぶ。「レボリューション(革命)の幕開けだ!」
サンダースは大富豪でなく全国民が恩恵を受ける社会に変える「政治革命」を掲げる。既存の政治に失望した1980年以降生まれのミレニアル世代に火をつけ、同州で18~29歳の5割超の票を得た。躍進を生んだのは、若者票を集める全米規模の学生組織だ。
「バーニーを支持する理由を表す映像をつくって」。2019年夏、東部ペンシルベニア州立大のアビゲール・カール(22)は陣営の「宿題」に取り組んだ。大学で支持者を勧誘する指導者養成講座だ。約3週間の講座を終えたカールは、週10時間以上の選挙活動が義務づけられた。こうした全米数千人の学生指導者がサンダースを支える。
ただ熱狂は排他主義と隣り合わせだ。
8日夜、マンチェスターの競技場「SNHUアリーナ」。民主党主催の夕食会で、前インディアナ州サウスベンド市長のピート・ブティジェッジ(38)の演説中に観客席のサンダース支持者がブーイングを浴びせた。「ウォール街の(富裕層が支持する)ピート市長」。赤く点灯する「バーニー」というボードを一斉に掲げ、打倒トランプで結束しようという党内の空気に水を差した。
16年大統領選の候補選びで元国務長官ヒラリー・クリントン(72)に敗れたサンダースの支持者の一部は本選でクリントンに投票せず、トランプ当選を後押しした。1月の世論調査で、サンダース以外が指名されても「党候補に投票する」と答えたサンダース支持者はわずか53%。約8~9割だった他の支持者に比べて著しく少ない。このままでは「民主党が壊れる」との懸念は根強い。
最高齢のサンダースと首位を争うのは、最年少のブティジェッジだ。
「みなさんの多くが新世代の指導者を選んだ」。11日、ニューハンプシャー州ナシュア。同州予備選で僅差の2位につけたブティジェッジは世代交代をアピールした。
中西部インディアナ州の小都市で誰もが認める「神童」だった。全米の高校生を対象にした作文大会で最優秀賞を受賞した。題材は「バーニー・サンダース」。社会主義者を自称する勇気と、超党派の取り組みを称賛した。ただ現在はサンダースの左派政策と距離を置き、中道派を掲げる。
事前の世論調査で5位だったブティジェッジは、初戦アイオワ州に賭けた。選挙資金の大半を投入し、失速した前副大統領ジョー・バイデン(77)を見限った穏健票の受け皿を狙った。
そして迎えた初戦の3日。アイオワ州デモイン郊外の体育館で、異変が起きた。
「ピートが第2候補だったからね」。党員集会の初回投票で敗れた別の候補の支持者が、次々とブティジェッジ支持に回り始めたのだ。他候補のステッカーを貼ったコートを脱ぐと、中にブティジェッジのステッカーを貼っていた有権者もいた。無名の新人だったブティジェッジが全国区に躍り出た。
「人生最愛の人」。大躍進した2戦を終え、11日の集会でブティジェッジは二人三脚で選挙運動を続ける配偶者の教諭チャスティン(30)に感謝の言葉をかけた。同性愛者を公言したのは全米で同性婚が合法化された15年だが、米国でも同性愛者が大統領になることへの賛否はまだ半々だ。
序盤2州で順調だったサンダースとブティジェッジ。ワシントン政治の「アウトサイダー」である2人に共通する弱点は黒人の支持率の低さだ。黒人初の大統領バラク・オバマ(58)の腹心だったバイデンが、黒人の支持に望みをかけるのとは対照的だ。民主党の大票田のマイノリティー層はまだ態度を決めかねている。(敬称略)
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民主候補選びは本命でなかった候補が先陣を切った。混戦を抜け出し、トランプへの挑戦状をつかみ取るのは誰か。
ドナルド・トランプ元アメリカ大統領に関する最新ニュースを紹介します。11月の米大統領選挙で共和党の候補者として、バイデン大統領と再び対決します。「もしトラ」の世界はどうなるのか、など解説します。