巨人・阿部2軍監督、新米指導者は気さくな熱血漢
昨季限りで現役引退したプロ野球巨人の阿部慎之助2軍監督(40)が、指導者として初めて臨む宮崎キャンプで、はつらつとした姿を見せている。現場の士気を高めようと、若手の打撃投手を買って出たり、ノッカー役を務めたり。指揮官自ら精力的に動き回っている。
今キャンプではマイペースでの調整を認められた坂本勇人、丸佳浩、亀井善行、炭谷銀仁朗の主力4選手がS(スペシャル)班に振り分けられ、2軍・3軍の若手と始動した。主な練習の場であるサブ球場に例年よりも多くのファンが詰めかける中、初日のグラウンドで練習前に「今日からみんながキャプテンだと思って、チームを引っ張る気持ちでやってほしい」と訓示。守備練習ではさっそくノックバットを握り、本来の左打ちとは逆の右打ちのノックで選手を鍛え上げた。
左右に容赦なく振り、ユニホームを泥だらけにするまで選手たちを動かした後は、トスを上げながら打撃フォームを指導。日が暮れるまでグラウンドで過ごした。下半身を十分に意識させるトス打撃は、あまりのきつさに選手たちからうめき声が漏れるほど。初日の熱血指導を目の当たりにしたキャプテンの坂本は「新鮮ですね。厳しくていいと思う」とうなずいた。
充実した初日を終えて「選手のとき以上に他人に興味が持てる。周りのことをメインで見るようになったときに、いろんなことに興味が湧いてくる」と阿部2軍監督。「目配り、気配り、思いやり」をモットーに掲げ、グラウンドではアメとムチとを巧みに使い分けている。
ノックの際には「歩いて(守備位置に)戻ってんじゃねえぞ」などと厳しい言葉を浴びせつつ、機敏な動きには「もうちょいだ」「惜しいぞ」といった激励を忘れない。練習をやり遂げた後には「グッジョブ」「お疲れちゃん」などと声をかけて、若い選手と気さくにグータッチを交わす。
連日のように登板する打撃投手では、笑みを浮かべながら「この野郎!」などと声を上げて打者に投げ込み、ボールを通じた相手との対話を楽しんでいる様子だ。現役の捕手時代に培ったコミュニケーション能力の高さは指導の現場でも存分に発揮されているようで、鬼軍曹のような厳しい空気をまといつつ、グラウンドには笑顔が絶えない。
1軍と2軍・3軍が対戦した4日の紅白戦で"初陣"となる指揮を執り、14安打7得点の快勝で白星。その姿を見守った原辰徳監督も「ベンチでの言葉や動きに意思がしっかり出ている。遠慮なく伝えられているのはすごい」と高く評価した。ただ、阿部2軍監督にとっては喜びよりも、自身にばかり注目が集まる現状への嘆きのほうが大きかったようだ。試合後には集まった報道陣に「俺はいいから。初采配で初勝利とかいらない。紅白戦だから。ちゃんと目立った選手を記事にしてあげてほしい」と要望した。
「僕も一日一日が勉強」という指導者生活はスタートしたばかり。厳しい練習に励む若手を「これがお金になって返ってくるからな」と鼓舞し、アピールすることの大切さを何度も説く。選手をその気にさせる指導で何人の阿部チルドレンを1軍スターに育てられるか。その手腕に注目だ。
(常広文太)