副業人材、長野県内で活躍 企業の成長に貢献
長野県内で副業人材が普及してきた。厚生労働省が2018年1月に「モデル就業規則」を改正し、副業・兼業の推奨を始めてから2年がたつ。副業人材を採用する県内企業数は着実に増えており、新規事業の創出などにつながっている。首都圏を中心に人材の流動性が高まるなか、人材の受け皿として地方でも新たな職業形態が広がりつつある。
「副業人材の採用を機に、海外事業を本格化させる」。総合玩具卸のウスザワ(上田市)の臼沢浩明常務取締役は、こう意気込む。これまでは国内事業のみだったが、19年に中国のインターネット大手が手掛け、海外のバイヤーとつながることができるプラットフォームに契約した。同サイトにウスザワの商品を登録して全世界に向けて売り出していく計画だ。
ただサイトへの出品や、海外バイヤーとのやり取りには英語が必須。英語の得意な人材がいないウスザワは東京の大手電機メーカーに所属し、海外で営業関連の勤務経験もある人材を副業で起用する。少子化で国内市場が低迷するなか、副業人材をてこに海外での新規事業立ち上げを加速させる。
既存事業の生産性向上に向け、副業人材を活用する例も見られる。精密部品製造のニシキ精機(岡谷市)は、19年11月から副業人材を活用し始めた。部品は機械にプログラミングしてつくるが、過去のプログラムは整理されておらず、検索ツールもなかった。
このため、大手精密メーカーのエンジニアを雇用し、検索ツールの開発を担ってもらった。月20時間ほど勤務をしてもらった。「結果的にシステム会社に外注するよりもコストを安く抑えれらた」(山田昌義代表取締役)。
行政でも副業が広がる。長野市は19年10月に市の長期プラン策定に向け、「戦略マネジャー」として4人を採用した。市の職員と副業人材を交え、月2回ほど庁舎で会議を開いている。戦略マネジャー自らが実際に市内に出て調査をするフィールドリサーチなども実施する予定で、計画策定に乗り出す。
副業の人材仲介専門のJOINS(東京・渋谷)は、複数の県内企業の要請を受け、これまでに20人の副業人材を紹介した。半年前の6人と比べると、大きく増えた。19年6月には県内の金融機関と提携も結んで、副業人材を求める企業の掘り起こしを進めている。
もっとも、これまで成約した20人のうち継続して働いているのは約10人。もともと企業が依頼する業務が終われば最短1カ月で契約が終了するケースもあるが、副業人材を雇ったものの想定よりも長続きしなかった例もあったという。JOINSの猪尾愛隆代表取締役は「受け入れ企業が、そもそもの課題の特定や解決策の立案といった(複雑な業務)を副業人材に任せる場合など、難しいこともある」と指摘する。
県内の生産年齢人口(15~64歳)が人口全体に占める割合は、19年で55.9%。1990年と比べると、約10ポイント低下している。今後も働き手の減少が避けられないなか柔軟な雇用形態は少しずつ普及しつつある。同時に、どんな仕事を任せるかなどの課題も見え始めてきた。
(下村凜太郎)