ローム、シリコンの「牙城」崩す 欧STと長期契約
ロームは2020年1月中にも半導体大手のSTマイクロエレクトロニクスへ次世代半導体材料「炭化ケイ素(SiC)」製のウエハーの供給を開始する。複数年にわたる長期契約で、同社にとって初めて。供給量は総額130億円超になるもようだ。SiC半導体はシリコン製に比べ性能が高いが、普及が進んでいない。競合相手にもなる半導体大手にSiC材料を供給することで普及を加速させ、シリコンの「牙城」を崩したい考えだ。
スイスに本拠を置くSTマイクロエレクトロニクスへSiC製のウエハーを供給する長期契約を結んだ。主流の6インチ(150ミリメートル)を供給し、主に自動車や産業機器向けパワー半導体での用途を見込む。ロームの独子会社で09年に買収したサイクリスタル社から供給する。「(SiC製半導体の)強い需要増に応えるため、必要なSiCウエハー量とそのバランスを向上できる」(STマイクロエレクトロニクスのジャン・マーク・シェリー社長)
ロームが成長戦略と位置づけるのがSiC製のパワー半導体だ。ウエハー製造を含めた「垂直統合型」で一貫した生産体制を持つ。25年3月期までに最大600億円の設備投資を予定しており、SiC専用工場が21年にも稼働する予定だ。これらの設備投資でウエハーの製造能力を含めて17年比で16倍まで生産能力が高まる。
SiC関連の市場は拡大する見通し。現在のSiC半導体市場は500億円ほどだが、24年には2200億円まで拡大するという調査もある。特に電気自動車(EV)など電動車向けでは効率の高いSiC半導体の普及が進むとされる。ロームのSiC半導体をEVのインバーターに採用すると500キログラムの駆動用バッテリーを40キログラム減らせ、航続距離を伸ばすことも可能だ。「ガソリン車からEVに置き換わればSiCの出番は増える。ロームが19年に工場の着工を始めたのはメーカーの採用の見込みがある証拠」(東海東京調査センターの萩原幸一朗シニアアナリスト)と期待の声もある。
ただパワー半導体の主流はシリコンとされ、三菱電機や富士電機など国内勢が高い世界シェアを持つ。「SiCの性能はシリコンより圧倒的に良いが、コスト面が課題」(伊野和英執行役員)とされるなかで重要になるのはSiC製の普及を加速させ、供給量を拡大することだ。完成車メーカーなどの採用が進み供給量が増えれば、スケールメリットを生かして生産コストを下げられる。STマイクロエレクトロニクスは半導体大手で、ロームと競合する分野もあるが、SiCの普及のために材料の供給を決断した。
(京都支社 赤間建哉)
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