古代醸造法の酢、ミラネーゼ称賛(古今東西万博考)
2015年・ミラノ
イタリアで2015年に開催されたミラノ万博では、日本館に約228万人が訪れ、日本への関心の高さを裏付けた。好評だったのは様々な食文化を堪能できることだった。明治12年(1879年)創業の老舗、丸正酢醸造元(和歌山県那智勝浦町)は15年7月、日本館で行われた和歌山県の催しに酢を出展。古代醸造法によるコクのある味わいが来場者から称賛を受けた。
同社は熊野山系の伏流水を使い、蔵の中の高さ2メートルの木桶(おけ)で酢を発酵させる昔ながらの製法を守り続けている。温度や湿度の調整はエアコンに頼らず、蔵の窓の開け閉めや木桶の上にかぶせた菰(こも)を使う。こうした手間暇をかけて90~500日熟成させ、うまみ成分が増した酢が出来上がる。
海外販売を本格的に始めたのは07年ごろだ。フランスにいた日本人の事業者に誘われ「軽い気持ちで始めた」(小坂和子・代表社員)。独特の味わいが評判を呼び、ベルギーや英国などに販売先を広げた。こうした海外経験があったことから、ミラノ万博にも出展を決めた。
会場ではスクリーンで同社の酢の製造法を説明。4製品を持ち込み、来場者に試食してもらった。同社の酢はまろやかでツンと来る刺激がなく、試食した人から「こんな酢は初めて」との声が上がったという。
イタリアでの同社の販売額は、万博後の16年は前年比1.6倍、17年は2.0倍になった。全体の売上高に占める海外比率も11年1月期の5%から19年1月期は32%まで拡大しており、今や海外販売は欠かせない事業に成長している。小坂代表社員は「今後は米国や中東などにも販路を広げたい」と意気込む。
(細川博史)
コラム「関西タイムライン」は関西2府4県(大阪、兵庫、京都、滋賀、奈良、和歌山)の現在・過去・未来を深掘りします。経済の意外な一面、注目の人物や街の噂、魅力的な食や関西弁、伝統芸能から最新アート、スポーツまで多彩な話題をお届けします。