ハメネイ師、「反米」で結束呼びかけ 8年ぶり演説
【ドバイ=岐部秀光】イランの最高指導者ハメネイ師は17日、2012年以来8年ぶりとなる金曜礼拝の演説に立った。米軍に暗殺された革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の追悼に多数が集まり、イランが米軍への報復攻撃に成功したことは「神の手による歴史の転換点だった」と述べた。「米国とは対話しない」とも語り、「反米」での国民の結束を呼びかけた。
イランでは軍が8日に民間旅客機を誤って撃墜したことに民衆の反発が高まっている。ハメネイ師は撃墜について「不幸で悲しいできごと」と指摘した。一方で「撃墜をイランを弱めることに使っている敵がいる」として、政府の対応を非難する抗議デモの参加者を間接的に批判した。
毎週金曜日に行われるモスクでの集団礼拝はイスラム体制下にあるイランで重要な行事だ。ハメネイ師は12年のイスラム革命33年の記念礼拝を最後に他の聖職者に演説をゆだねてきたが、8年ぶりの演説で国内の引き締めを図ったとみられる。礼拝の参加者は「米国に死を!」のスローガンを叫んだ。
米国の制裁で経済環境がきびしいイランでは17年末と19年にも、地方都市を中心に物価高に抗議するデモが広がった。今回のデモは、首都テヘランの学生らが主導するのが特徴だ。
いまのところデモは体制を揺さぶるほどの規模にはなっていないが、著名な文化人やスポーツ選手らが体制批判に転じており、政治の機能不全に対する人々のいらだちを映している。
国際社会での孤立も深まる。米抜きでイラン核合意を守ろうと努力してきた英国、ドイツ、フランスはイランによるウラン濃縮制限からの逸脱を「合意違反」と事実上認定し、国連制裁につながる手続きに着手した。ジョンソン英首相はトランプ米大統領に同調し、核合意の維持ではなく、別の「ディール(取引)」に軸足を移す立場を示唆している。
ハメネイ師は演説で「米国の利益のために行動している」と3カ国に不信感を示す一方、米国以外の国とは交渉する意思があると述べた。
イランはソレイマニ氏暗殺への報復としてイラクにある米軍基地を8日、弾道ミサイルで攻撃した。イランは米兵の犠牲を出さないよう慎重に行動したとされるが、米軍は16日、11人の米兵が脳振盪(しんとう)で治療を受けたと発表した。