米銀、コスト削減を先行 店舗閉鎖・デジタル投資重荷
【ニューヨーク=宮本岳則】米大手銀の業績が踊り場に差し掛かった。2019年12月期決算は、前の期の実績を下回る銀行が目立った。米連邦準備理事会(FRB)による利下げで貸出金利が下がり、金利収入に下押し圧力がかかった。金融への進出に意欲を示す巨大ITに対抗するため、デジタル投資もかさむ。店舗削減といった「守り」の意識も高めている。
「(米中合意など)いくつかの問題で解決が見られたことや強い個人消費に支えられ、活発な企業活動が期待できる」。15日に開かれた米バンク・オブ・アメリカの決算説明会。ブライアン・モイニハン最高経営責任者(CEO)は今後の事業環境について、いつも通り強気の見通しを語った。ところが株価は終値で前日比2%安となり、冷めた反応となった。19年12月期決算が5期ぶりに最終減益となったことが嫌気されたようだ。
堅調な米景気と減税に支えられた米大手銀の業績は、拡大持続に黄色信号がともり始めた。19年12月期はバンカメを含めて減益決算が目立った。最大手JPモルガン・チェースは投資銀や資産運用部門など幅広い分野で強さを発揮し、通年で過去最高の純利益をたたき出したが、20年12月期のアナリスト予想平均(米ファクトセット調べ)は前期比5%減る見通しになっている。
商業銀部門の業績を下押しするのは「利ざや」の縮小だ。貸出金利から調達コストにあたる預金金利を引いた値で金利収入を左右する。19年10~12月期は商業銀業務主体の上位4行のうち、JPモルガンとバンカメ、ウェルズ・ファーゴの3行で利ざやが悪化。JPモルガンは20年1~3月期の純金利収入を140億ドル程度と見込んでおり、前年同期を下回る見通しになっている。
利ざや縮小の原因はFRBが19年に実施した3回の利下げだった。貸出金利は短期金利に連動しやすい。一方、預金金利はインターネット銀行などとの顧客囲い込み競争の影響で下がりにくい。この「組み合わせ」が利ざや悪化と金利収入の減少につながった。20年は追加利下げが見込まれていないが、前年同期比ではしばらく収益の悪化要因となる。
高水準のIT投資も償却費の増加を通じて収益の重荷となる。バンカメは20年も18年、19年とほぼ同水準の30億ドルのテクノロジー投資を計画する。分散台帳の技術「ブロックチェーン」の開発などに力を入れる。19年はアップルやフェイスブック、グーグルといった巨大IT企業が金融分野への進出に強い意欲を示した1年だった。米銀は優位性を維持するために、大型投資の継続が不可欠となっている。
米大手銀は事業環境の変化を受けて、先手のコスト削減に動く。シティグループのマーク・メイソン最高財務責任者(CFO)は「IT投資継続のために他のコストを抑える」と表明。非金利費用を総収入で割った「効率性レシオ」は19年12月期通年で56.5%となり、前の期に比べて0.9ポイント下がった。
個人顧客をモバイルサービスに誘導することで、店舗網の見直しも進めている。JPモルガンの19年12月末の支店数は、前年同時期に比べて60店舗(約1.2%)減った。米投資銀行キーフ・ブルエット・アンド・ウッズ(KBW)のアナリスト、ブライアン・クラインハンスル氏は「米銀が人員削減にまで踏み込むかどうかが20年の焦点」と指摘した。
債券売買仲介(トレーディング)業務は各行とも堅調だった。ゴールドマンは債券・通貨・商品売買業務の19年12月期の純営業収益が前年同期に比べて6%増えた。特に10~12月期に入って機関投資家と事業会社の取引需要が大きく増加した。取引が増えたのは、国債などを担保に短期資金を融通する「レポ取引」の安定によるところが大きい。
米連邦準備理事会(FRB)が19年9月に2度目の利下げを実施するなか、米国の短期市場ではレポ取引の金利が急騰した。市場参加者が一時、債券売買を控える事態となり、金融調整を担うニューヨーク連銀が市場の安定に向けて連日資金を供給した。ボラティリティー(変動率)が低下したことで、機関投資家などは売買をしやすくなったようだ。