上方の薫り、色濃く漂う(歌舞伎評)
大阪松竹座「壽初春大歌舞伎」
1月の松竹座は「壽初春大歌舞伎」。昼夜に大阪ゆかりの演目が並び、上方色が色濃く漂う公演である。
昼の部は45年ぶりの上演となった「九十九折(つづらおり)」から。幕末の京都を舞台に時代や社会に翻弄されて道を誤る市井の人物が主人公。松本幸四郎の清七は、実直な商人が職と恋を失って堕(お)ちていく様を陰影のある演技で表現する。中村壱太郎が清廉な大店の娘・お秀と、清七の金を狙っている山猫芸者・雛勇(ひなゆう)を演じ分ける。片岡愛之助は雛勇の間夫で悪党の力蔵を厚手に描き出した。
「大津絵道成寺」は変化舞踊。愛之助が鮮やかな早替りで柄の異なる5役を巧妙に踊る。
上方和事の「酒屋」は中村鴈治郎が宗岸と半七、中村扇雀がお園と三勝の2役を替わるのが趣向。鴈治郎の宗岸と嵐橘三郎の半兵衛がそれぞれ慈父と厳父を対照的に見せた。扇雀は竹本との融合でお園の憂いの世界観を微細に写し出す。
夜の部は「義経千本桜 川連法眼館」。愛之助が狐忠信を本興行では初めて演じる。本物の佐藤忠信に英明さが感じられ、狐忠信では鼓を譲られてからの歓喜の表現に情感が溢(あふ)れた。片岡秀太郎の義経が秀逸。貴種の気韻、落人の風情がともに備わり、狐忠信の身の上に自らの運命をかこつ心情描写が緻密だ。
「夕霧名残の正月 由縁の月」は元禄風の大道具で鴈治郎の伊左衛門と扇雀の夕霧が幻想的な場面を感興深く現出させた。
最後は「大當(あた)り伏見の富くじ」。装置、音楽、演出、どれも前衛的かと思えば古風でもありと奇想天外。喜劇として大いに笑わせながら、幸次郎と鳰照(におてる)太夫の出会いと別れがしっかりと組み込まれており、人情劇として成立している。鴈治郎の鳰照太夫が可愛(かわい)らしい。27日まで。
(大阪樟蔭女子大教授 森西 真弓)
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