色彩自在、はかどる職場 コクヨのオフィス家具デザイナー
匠と巧
かつて殺風景だったオフィスが、まるでリビングのように色とりどりの空間に変わってきた。生産性向上に向け、仕事がはかどる椅子や机などへの関心も高まっているためだ。コクヨでオフィス家具の色彩などを決める大木一毅さん(44)はデザインの力でこうした課題に挑んでいる。
JR品川駅に近いコクヨのショールーム(東京・港)。大木さんに家具に使う緑色の生地サンプルを見せてもらうと、落ち着く気がした。よく見ると濃淡2色の緑の糸で紡がれている。同じ系統の色でも違うトーンを組み合わると、より自然に感じ深みも出る。「紅葉と原理は同じだ」と大木さん。紅葉は似た色が複雑に混ざり深みが出る。生地なども複数の色を使うと落ち着いた雰囲気が出る。
オフィスは落ち着くだけでなく、仕事を片付ける場だ。大木さんは多くの色やその組み合わせから用途に適した色合いを探る。2018年発売のワークテーブルは天板に大理石柄を採用した。高級感漂う雰囲気にすれば、そこにいる人に余裕が生まれ、仕事がはかどるのではと考えたから。主に会議室で使われ、コクヨが18年に発売したワークテーブルの天板20種類のうち3位の売れ行きを誇る。
大木さんは09年度にコクヨが世界的なiFデザイン賞を初めて社内デザイナーだけで受賞した際の一員。いまはプロダクトデザイナーとしてオフィス家具全体の統一性を保つ「横串機能」も担い、統一感を高める提案を椅子やデスクの担当部門に投げかける。自由に色を選び製品を作って同じ空間に並べるとちぐはぐな印象を与え、気が散ってしまうからだ。つまりコクヨのオフィス家具全体の雰囲気を決めるのは大木さんの感覚といえる。
大木さんは自動車会社に勤めていた父親の影響もあり、幼少期から車好きで絵を描くのが得意。カーデザイナーを志したが家電などにも興味を持ち、いつしか「身の回りのものすべてをデザインしたくなった」。なぜなら「空間単位で見れば互いに関係しているはず」だから。デザイン事務所に入り携帯電話から手術器具まで様々なものを担当したが、様々な案件をこなす日々に疑問を持ち、04年に体系だった仕事ができるコクヨに移った。
「大木はカメレオン」。変幻自在に色彩を操る仕事ぶりを上司がこう評するのを耳にしたことがある。自分らしさを否定された気がしたが、デザイナーの役割は使う人の生活が豊かになる商品を作ること。デザイン事務所で過ごした3年強も自らの強みと捉えるようになった。
「今後は多様化する働き方に対応する商品やオフィスが求められる」。オフィスにはかしこまった場所もあれば、カフェのようなスペースがあってもいい。最近、集中のために瞑想(めいそう)ルームを設けているという事例も聞いた。大木さんはその話を開発に生かすため、京都などの神社仏閣を訪ねヒントを探るつもりだ。
(川原聡史)
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