英下院、EU離脱法案を可決 1月末に実現へ
【ロンドン=篠崎健太】英議会下院は9日午後(日本時間10日未明)、英国が欧州連合(EU)から離脱するための関連法案を賛成多数で可決した。近く上院でも承認され成立する見通しだ。2016年6月の国民投票から3年半の迷走を経て、20年1月末の離脱が実現する。EUから加盟国が抜けるのは初めてとなり、2度の大戦後に進んできた欧州の統合は大きな転機を迎える。
離脱関連法案は、英政府とEUが19年10月にまとめた新たな協定案を英国の国内法に反映させ、離脱を実行するためのものだ。ジョンソン首相率いる与党・保守党が12月の下院総選挙(定数650)で過半数議席を制する大勝を果たし、可決は確実視されていた。採決結果は賛成330、反対231だった。
欧州議会も月内に離脱協定案を承認する見込みで、英・EU双方の批准を経て、英国は1月31日午後11時(日本時間2月1日午前8時)にEUから抜ける。ただ、EUを離脱しても20年末までは通商や規制などの面ではEU加盟国と同じ環境が維持される。経済の激変を避ける「移行期間」を設けたためだ。
1月末の円滑な離脱に道筋がついたことで、焦点は離脱後の英・EU関係の行方に移る。英国側は2月から交渉に着手し、関税ゼロの通商関係を続ける自由貿易協定(FTA)を速やかに結びたい考え。日本や米国ともFTA交渉を急ぐ方針だが、通常は少なくとも数年かかるFTA交渉を移行期間内に妥結するハードルは高い。
ジョンソン政権は移行期間を予定通り20年末で終えると宣言し、離脱関連法案にもその延長禁止を明記した。通商交渉を妥結できないまま移行期間終了を迎えれば、世界貿易機関(WTO)ルールに基づいてEUなどとの貿易に関税が出現し「合意なき離脱」と同じ状況に陥りかねない。
EUのバルニエ首席交渉官は9日、英下院の採決に先立つ講演で「11カ月で最善を尽くす用意があるが、もっと時間が必要だ」と述べた。「1年足らずで全ての面に合意できるとは思えない」とも指摘し、優先順位を付けて交渉する必要があるとの認識を示した。
英国は16年6月23日の国民投票でEU離脱の是非を問い、離脱52%対残留48%の僅差で離脱が選ばれた。メイ前政権は18年11月にEUと離脱案をまとめたが、英下院で19年1~3月に計3回否決された。EU加盟国アイルランドとの国境の取り扱いをめぐり、解決策が見つかるまでEUから事実上抜けられない内容に、与党の強硬離脱派が反発したためだ。
EU離脱は当初予定の19年3月29日から繰り返し延期された。引責辞任したメイ氏から首相を引き継いだジョンソン氏は、英領北アイルランドだけEU単一市場に部分的にとどまるなどの解決策を盛り込んだ新離脱案をEUと合意した。総選挙で保守党が大勝を果たし、訴え続けてきた早期離脱に道筋を付けた。
英国がEU加盟国として恩恵を受けてきた通商環境を維持できるかは、今後の交渉次第となる。グローバル企業が欧州の拠点を構え、国際金融センターでもあるロンドンは離脱後も地位を保てるか。EUとの窓口としての存在感を発揮してきた英国の国力の長期的な行方は見通せない。