新旧大関の奮起期待 ベテランの味で若手の壁に
大相撲初場所は12日、両国国技館で初日を迎える。先場所優勝の横綱白鵬が健在ぶりを示す中、すっかり優勝から遠ざかっているのが大関陣だ。最近3場所続けて関脇に陥落する力士が出ており、半年前の4人から2人に減った。今場所も豪栄道が9度目のかど番で苦しい立場だ。それぞれ故障に悩まされて力を発揮できていないが、若手の成長を促すためにも奮起に期待したい。
在位15場所で陥落した高安は、今場所で2桁白星を挙げれば大関に復帰できる。ただ、最近見ていて気になるのは上半身がどんどん大きくなっているのに対して、下半身にさほど変化がないという点だ。力士の体に限らず、下がしっかりしていないと上が不安定になるのは当然。大関陥落の直接の原因となった腰痛にしても、腹が出てきて体が前に引っ張られることで負担がかかったのではないか。普段の稽古のやり方を考え直す必要があるだろう。
その高安も来月には30歳。今まで体を酷使してきた人間は、30代に入ると体のいろいろなところにガタがくるものだ。秋場所で関脇に一度落ちてから復帰した貴景勝の場合はまだ23歳と若く、けがを治して戻ってきたのであてはまらないが、秋場所限りで陥落した32歳の栃ノ心は度重なる故障の中でよく頑張ったのではないか。膝の大けがで番付を大きく落としてからはい上がり、優勝や大関昇進を成し遂げるのは並大抵のことではない。その分、体への負担も大きく、結局またけがで落ちてしまったが、気持ちを切らさずによく頑張っている。
■空席待つのではなく、実力で大関に
成績が振るわないだけに大関陣がふがいないといわれてしまうのは仕方ない面もあるが、彼らに取って代わろうという若手の台頭が鈍いことの方が残念だ。栃ノ心や高安が陥落したといっても、誰かが代わりに大関に上がったわけではない。今の状況では、ベテランの力が落ちたり、けがをしたりするのを待っているようにしか見えない。空いた大関の席に自分が座ろうなどと甘い考えでいるようでは駄目だ。上の人間が強いうちに引きずり下ろして、自分が実力で大関になるんだという力士が出てこなければいけない。
九州場所で振るわず平幕に逆戻りしてしまった御嶽海も、上位で十分通用する力を持っている。稽古でもう少しだけ努力すればいい。あとは本人の自覚次第。今の状況に「なにくそ」と奮起して相撲を取り、自分を変えていかなければ。目覚ましい成長で強さを感じさせる新関脇の朝乃山とともに、今年中に大関に上がってくればきっと土俵が盛り上がる。
もちろん高安や栃ノ心、豪栄道もこのまま老け込んでいくばかりではないだろう。ベテランにはベテランの味があり、これから上がってくる力士たちの壁となって、まだまだやれるところを見せなければならない。若手が上の番付を目指すには、これまで以上に稽古に励まなければいけないんだと思い知らせるためにも、彼らが踏ん張って跳ね返す必要がある。
けがによる休場明けで迎える場所は難しいものだ。特に年齢を重ねてくると稽古を2、3日休んだだけでもせっかく鍛えた体が元に戻ってしまう感じで、不安にもなる。ただ、休んでいる間は行事や宴席に呼ばれることもなく、自分のためだけに時間を使えるという利点もある。
■必死にやっていれば周りから共感も
私も現役時代、好成績を挙げた後などは様々な場に顔を出すことになり、それで調子が狂うことがあった。それは自分の弱さでもあったと思うが、自分のやりたいことに時間を使えず、ペースをつかめなかった。その点、かど番のときはそんな誘いが一切なくなり、とことん体を鍛えて自分を追い込むことができた。治療や肉体改造に集中して取り組めるのは大きい。
故障だから安静にしろといわれて、本当に何もせずに過ごしていれば筋力が落ちて相撲が弱くなっていくだけだ。どこかを痛めていてもできることは必ずある。患部を治しながら、その時点でやれることを最大限やっていけば次の場所で復調もできる。さすがに骨折のような大けがになると難しいが、肉離れ程度なら1カ月半もあればなんとかなる。苦しいリハビリを乗り越えてこそのプロだ。
何も持たず、まわし一本で勝負する相撲は衰えが目に見えてわかりやすく、体の張りも一目瞭然だ。特にベテランは力が落ちると厳しい目で見られがちだが、必死にやっていれば周りの見方も変わってくるし、共感してくれる人も必ずいる。諦めない姿勢、困難に立ち向かっていく生き方を示すのも我々の仕事だろう。
(元大関魁皇)