ハード面整備では不十分 真のバリアフリーとは
マセソン美季
「小さなころから、自分と違うニーズのある人たちと身近に接する機会を増やすと、子どもたちの学びの幅が広がります。だから協力してください。できる限り学校に顔を出してください」。息子がカナダの幼稚園に通い始めた時、同じ敷地に併設されている小学校の先生にこう言われた。
その言葉に誘われ、機会があれば学校でのボランティア活動に積極的に参加した。幼稚園も学校もバリアフリーなので何の心配もせず、様々な行事に気兼ねなく参加できる環境が整っていたのはありがたかった。
日本の学校を訪れると、残念ながら誰かの手を借りなければ校内に入ることができないことが多いし、教室や体育館への移動時は、車いすごと担がれて階段を上り下りする機会も少なくない。もし日本で子育てをしていたら、子どもたちの学校に行きたくても遠慮したり、諦めたりしていたのではないかと思ったことがある。
現在、国土交通省が改正を検討しているバリアフリー法で私が注目しているのは、全ての公立小中学校へのバリアフリー設備の設置義務化が改正案に盛り込まれる可能性があるという点。施設が整っていないという理由で、障害のある子どもたちが地元の学校から受け入れを拒否されるケースがなくなる日は近いのかもしれない。
ただ、カナダでの体験を振り返ると、ハード面が整備されていたから学校のボランティア活動に参加していたかといえば、それは違う。私の存在が「子どもたちのためになる」という言葉や、違いを気持ちよく受け入れてくれる学校側の態度のおかげで、私の心の負担が払拭されていたことが大きい。
日本ではハード面の整備不足を補うために、「心のバリアフリー」という言葉がよく使われる。しばしば、優しさや思いやりを持って接することと解釈されているように感じる。
だがそんな豊かな心を持つには、広い知識や経験が必要で、それが言動ににじみ出るものだ。感情だけに依存せず、自然と出る意識や態度がもたらす心のバリアフリーの必要性への理解が、もっと浸透してほしい。
1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジ・スピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。国際パラリンピック委員会(IPC)教育委員も務める。