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メジャー科学時代の象徴 バウアー投手、日本帯同記

スポーツライター 丹羽政善

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過去5年連続で2桁勝利を挙げ、2018年はピッチャーライナーを右足首に受け、骨折していなければサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)を取れたであろうトレバー・バウアー(レッズ)の来日は、二転三転した末に、ようやく実現した。

話は、スプリングトレーニングが中盤に差し掛かった今年3月8日まで遡る。その夜、バウアーのビジネスパートナー、タイキ・グリーン氏から筆者にメッセージが届いた。「今日、トレバーがNHKのインタビューを受けたみたいだけど」

グリーン氏はかつて、バウアーがオフにトレーニングを行う米シアトル郊外の「ドライブライン・ベースボール」で働いていて、バウアーがドキュメンタリーの映像制作会社を立ち上げたのを機に退職し、ビジネスパートナーとなった。ドライブライン・ベースボールの取材を通して何度もやりとりしていた彼に、筆者がインタビュアーを務めたことを伝えると、「(バウアーは)すごい面白かったと言っている」と返信があった。

おそらく効いたのは、NHKの「ワースポ×MLB」という番組で開発したAR(拡張現実)の映像だろう。ゴーグルをつけて実際に投手の投げたボールの軌道を体験するその技術にバウアーは興味を持ち、その時点で11月に日本へ行くから、ぜひスタジオで体験したいというところまで話が弾んだ。グリーン氏からも「その時はお願いしたい」と念を押されている。

当初、11月20日前後に予定されていた来日は、10月半ばに変更されたが、結果として内容が濃くなった。4月に意見交換して以来、バウアーと交流のあった菊池雄星(マリナーズ)が、いろいろ動いてくれたのである。

9月半ば、レッズがシアトルに遠征したタイミングで2人が顔を合わせ、まずはバウアーが「日本のいろんな野球シーンを見てみたい」と切り出すと、菊池は「西武が優勝したら、クライマックスシリーズのチケットを用意するので、どうですか?」と応じた。「ファンの盛り上がりがすごいので、ぜひ見に行ってほしい」

続けて菊池は「岩手で、高校野球の試合を見ませんか」と提案した。「ちょうど来日の頃、岩手で秋季東北大会が行われているので」

いずれもバウアーにしてみれば、願ってもない申し出だった。

バウアーが日本へ行きたいと考えた一番の理由は、日本の野球文化に触れること。そして滞在を映像に収め、ドキュメンタリーとしてまとめるつもりでいたが、一気に2つも来日の柱となりそうな予定が決まった。

米国からはプロデューサーとカメラマンも一緒に来日し、さらに「日本へ行ってみたい」という彼の両親も同行することになった。結果、かなりの大所帯になったが、岩手では試合を見る段取りから、食事の予約まで、菊池本人がしてくれている。さらに「バウアーたちはどこに泊まるんですか?」と聞かれて、プロデューサーがよく分からないまま予約したビジネスホテルの名前を告げると、「大リーガーが泊まるにはちょっと……。いいところがあるので」と、宿泊先の手配までしてくれた。

そうして前半の日程が固まり、NHK訪問など後半のスケジュールも埋まっていったわけだが、直前になって文字通り雲行きが怪しくなった。各地で大きな被害をもたらした台風19号が接近してきたのである。

過去最強勢力か、といった予測は米国でも報じられていたようで、プロデューサーから何度も問い合わせが入る。来日自体は台風上陸の数日前だったので、飛行機は飛ぶとのことだったが、東北大会の延期は濃厚だった。

日本で伝えられている状況を逐一報告し、あとは彼らに判断を委ねるしかなかったが、最終的に延期を決めたのは出発前日だった。「残念ですが、また次ですね」と菊池。自然が相手では、どうしようもなかった。

「やはり今年中に」直前まで予定調整

もっとも、延期といっても、台風が通過するまでというニュアンスではなく、その後のバウアーのトレーニング日程を考えれば中止に近かった。仮に実現するとしても、早くて来年のオフかなと考えていたところ、「やはり、今年中に行きたい」とバウアー側から連絡が入ったのは、延期決定からおよそ1週間後のこと。11月終わりに再び一時帰国する予定になっていたので、12月上旬は日本にいるという話をすると、前回の予定より滞在は短くなるが、日程を合わせられるかもしれない、という意外な展開になった。

しかしながら、その日程がなかなか確定せず、予定を組むのにひと苦労。最終的にはできそうなことを列挙し、バウアー本人と彼がオフのトレーニングを行っているドライブライン・ベースボールで会って絞り込んだが、それは彼が出発する4日前、11月25日のことだった。

とはいえ、残念ながらプロ野球シーズンは終わり、高校野球の試合もない。NHK訪問は、バウアー本人たっての願いで予定通り実現することになったが、他をどうするか。結果的に10月に予定していたのとは異なるテーマを来日の目的に据えることになった。

大リーグではデータに基づいた科学的なアプローチが主流となっているが、日本ではどうか。一方で日本には、古来受け継がれてきた精神的な野球文化もある。それらは新しい流れとどう共存していくのか。

前者については、日本野球科学研究会に出席し、「科学的知見を誰が、誰に、どう伝えるか」というテーマで登壇予定だった国学院大学・神事努准教授のシンポジウムに飛び入り参加したのち、話を聞くことになった。後者は「菊とバット」「和をもって日本となす」の著者で、日本古来の伝統的な野球文化に詳しいロバート・ホワイティング氏と対談し、掘り下げることになった。

そのほか、DeNAベイスターズが、ドライブライン・ベースボールに選手を派遣していた縁で、横須賀の2軍施設「DOCK」を訪問することなどが決まった。

さて、いよいよ来日……。

3月8日に計画が始動し、様々な企画が検討され、残ったものもあれば、残念ながら消えたものもある。台風19号によっていったんは仕切り直しとなったが、「どうしてもこのオフに日本へ行きたい」というバウアーの執念が、最後は形となった。

そのバウアーが11月30日、成田空港に到着。彼は、エコノミークラスでやってきた。

正直なところ、バウアーの日本での知名度がどの程度のものか、測りかねていた。

データを基に思い通りの球種づくり

大リーグでもどちらかというと、玄人好みの選手。バイオメカニクスの理論にたけ、必要なトレーニングを自ら考えるほど。また、データ分析においてはチームのアナリスト顔負け。他の投手とは、アプローチがまるで異なる。ボールが受ける空気抵抗に興味を持ったときには、クリーブランドの空港近くにある米航空宇宙局(NASA)のグレン・リサーチセンターを訪れ、回転軸や回転数との関連について議論したというから、チームメートの投手ですら、ついていけなかった。

ちなみに、今や広く知られるようになったトラックマンという弾道計測器。もともとはゴルフのトレーニング用に開発され、その後、野球に転用されると08年ごろからボールの回転数、変化量などがわかるとして大リーグ各球団がこぞって導入したが、個人でシステムを購入し、オフのトレーニングで利用し始めた野球選手は、バウアーが初めてだった。

その後、大リーグでは14年から順次、そのトラックマンと選手の動きを追跡する「ChyronHego(カイロンヘゴ)」という2つを組み合わせた「Statcast」という新解析システムが運用され始めた。そこで得られるデータの活用に各チームが躍起になった頃、バウアーは知識の習得を終えており、データを基に思い通りの球種をつくる(ピッチデザイン)という新たな試みを始めていたのだから、投手のみならず、各球団のアナリストらが、彼の取り組みに注目するようになった。

各チームが、彼がオフにトレーニングを行うドライブライン・ベースボールの視察に訪れるようになったのも15年ぐらいから。今や、同施設のアナリストやバイオメカニストが、メジャーの球団にヘッドハンティングされるようにもなっている。

そんな大リーグの状況にあって、バウアーは時代の象徴ともいえる選手だが、日本ではどうなのか。そもそも、どこまでそうしたアプローチは浸透しているのか。

それを知ることは今回の来日のテーマの一つだったが、来日初日、神事准教授のシンポジウムに飛び入り参加したときの会場の反応は、いまひとつ。こんなものかなと拍子抜けしたが、終わって会場を後にしようとすると、バウアーに話を聞きたいという人が列を作った。外の廊下で多くの人に囲まれ、次々と質問をされる。その中には、日本のプロ野球球団のアナリストらも含まれていた。

帰りの車の中。「思ったよりみんな興味を持っているし、若い人が多くて、新しいムーブメントを創造していくような勢い、熱意を感じられた」とバウアー。「もし、なにか協力できることがあるなら」と、名刺をもらった人には、米国に戻ってからメールを返していた。

もちろん、あそこに来ていた人は、まさにバウアーのような取り組みに興味があるからこそ会場に足を運んでいるわけで、そこは割り引いて考える必要があったものの、それでも熱量には思うところがあったか。

ARで球の軌道体感「参考になった」

来日2日目は、NHKへ。自分の球の軌道のみならず、事前にリクエストを出してもらった様々な投手の軌道をARで体感してもらうことが目的だったが、その前に、モーションキャプチャースーツを着てもらい、彼の動作データをとらせてもらった。

それはもちろん、打ち合わせの段階で伝えてあったが、オフということも考えると、100%で投げることは難しい。しかし、正確なデータをとるにはある程度、それに近い形で投げてもらう必要がある。かといって強制はできず、程度は本人に任せたが、収録前、「15~20分、時間をくれ」とバウアー。「ちゃんと準備をしたいから」

トレーニングウエア、ボール、グローブはもちろん、通常のウオーミングアップで使用する重いボール(プライオボール)を持ち込み、スタジオ内に立てられた大型のクッションを利用して、肩をつくり始めた。その表情は真剣そのもので、声をかけられないほど。その後、番組で解説を務める黒木知宏さんと比較的短い距離でキャッチボール。相変わらず張り詰めた空気が流れ「よし、準備ができた」と言ったとき、バウアーは額にじわりと汗をかいていた。

まずはモーションキャプチャースーツを着て、3球種ほど、2~3回ずつ投げてもらったが、軽い感じではない。その時点でのほぼ100%という力の入れ具合だった。

AR体験も含め、そのときの様子は、来年3月に放送予定の番組を見てほしいが、ARの技術に関しては、実際に体感すると、そのリアリティーは想像以上だったようで、バウアーは「参考になった」と感想を漏らした。例えば、自分のカーブとジャスティン・バーランダー(アストロズ)のカーブは何が違うのか。2つの軌道を体感し、改善のヒントをつかんだよう。

さらに、「チームがこの技術を使えば、トレー二ングにもなる」とバウアーは話し、「球場に設置してファンサービスに使えば、もっと若い子供たちが足を運ぶ理由になるのに」と真剣な表情だった。

さて、収録後にみんなで食事に出かけたが、収録中から「今日は、バウアー選手に色々聞きたいことがある」と話していた黒木さん。言葉通り、いろんな質問をぶつけ、トレーニング方法やデータの利用の仕方、そのデータに興味を持った経緯も尋ねていた。その内容は、そのまま番組にしても面白いぐらいだった。

その時の印象的なバウアーの言葉を1つだけ紹介したい。「テキサスランチがなければ、野球選手にはなれなかった。ドライブラインに出合わなければ、今の自分はない」

テキサスランチは彼が子供の頃、夏になると通ったトレーニング施設だが、プロになってからはいろんなトレーニング施設の門をたたき、それぞれのトレーナーらと議論を重ねたが、納得のいく答えが得られない。しかし、カイル・ボディー(ドライブライン・ベースボール創設者)が唯一、明快に体の使い方を教えてくれたそうだ。

神宮のマウンドで石川と投球談義

3日目は、朝からロバート・ホワイティング氏と神宮球場で対談を行った。テーマは前述したように、日本古来の精神野球。詳細については今回のドキュメンタリーが完成し次第、バウアーのホームページで公開される予定なので紹介を控えるが、なぜ、神宮球場が対談場所になったのかということは、日本と米国の野球を通じた交流のルーツとも関連があり、興味深いところである。

ところで対談終了後、たまたま神宮球場の横にあるヤクルト・スワローズのクラブハウスに石川雅規がいて、駆けつけてきてくれた彼と、神宮球場のマウンド上で図らずもピッチング談義が始まった。

実は、10月に来日した場合、ヤクルト戸田球場を訪れて、バウアーは石川、小川泰弘と交流する予定だった。それが流れてしまっただけに、今回、うまくタイミングがあった。その石川の質問は、投球時の呼吸法など、同じ投手にしかわからないような専門的なものばかり。バウアー自身、石川との意見交換を楽しんでいた。

4日目は、巨人・岩隈久志が監修したトレーニング施設「IWAアカデミー」を午前中に見学し、午後からDeNAの2軍施設DOCKへ。今年夏に完成したばかりの施設訪問が実現したのは、ベイスターズがドライブライン・ベースボールに選手を派遣していた縁もあったが、バウアー側の事情もあった。

ちょうどその日、バウアーはスローイングプログラムをする場所を探していた。DOCKの室内練習場なら十分な距離もある。同時に相手も必要としていたが、そのことをベイスターズ側に伝えると、隣の寮に住んでいる選手に聞いてみます、と相手を探してくれた。

そうして実現したのが、すでに報じられているように京山将弥とのキャッチボールだったが、その日、都内で用事があった今永昇太も夕方に駆けつけ、顔合わせが実現。2人はその後、渡米してドライブライン・ベースボールでトレーニングを行ったが、そこでバウアーと再会し、食事にも行って交流を深めたのだった。

よく晴れた最終日の朝は、ホテル周辺で最後の撮影を行った後、バウアーは今回の滞在で、初めて2時間ほどのフリータイムを得た。プライベートで来日しているとはいえ、ドキュメンタリーの制作がメイン。滞在日数も限られたため、慌ただしく時間が過ぎていった。

最後に行きたいところは?と聞くと、カメラや電化製品の店に行きたいとのことだったので秋葉原へ。探していたカメラは見つからず、両親と友達へのお土産を買っただけだったが、街を歩いていると、彼の視線がある店にくぎ付けになった。「子供の頃、カリフォルニアの自宅近くにあったから、よく食べたんだ」

その店とは、吉野家だった。お昼はラーメンでもと思っていたが、「いや、吉野家で食べたい」。カウンターで並んで食べた。

「日本の方がおいしい気がする。味が違うな。お米も違うのかな」

ちなみにバウアーは箸を上手に使いこなす。一緒に食事をした今永、京山も驚いていた。「もう、言わないでくれ。言われると意識して、箸の使い方がわからなくなってくる(笑)」

お昼を食べ終え、ホテルへ戻るタクシーの中。彼はこんなことを言った。「とにかくみんな、いろんな質問をしてくれるのがうれしい。そういうやりとりを通じて、こっちもいろんなことを知ることができる。日本ではそういう機会が持ててよかった」

その日、夕方の便でバウアーはシアトルへ帰っていった。もちろん帰路も、エコノミークラスだった。

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