英語「民間活用」初めから 非公開の会議、議事録公表
2020年度から始まる大学入学共通テストで導入予定だった英語民間試験の活用と国語と数学の記述式問題を巡り、文部科学省は24日、非公開で議論した2つの有識者会議の議事録を公表した。活用方針を了承した会議では、初回で英語民間試験を活用する案が有力になっていたことが判明。公平性を強く懸念する意見も出たが、具体的な解決策が議論されないまま会議が終わっていた。
公表された会議の1つは「『大学入学希望者学力評価テスト(仮称)』検討・準備グループ」。大学教授や高校関係者ら9人が委員を務めた。
自由な意見交換が制約されるなどの懸念を理由に、17年3月の第9回までが非公開とされた。
議事録によると、16年5月の第1回会議では文科省が英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)を測る試験の実施方法で3案を提示。A案は「大学入試センターが単独で実施」、B案は「センターが試験実施を民間に委託」で、C案が「民間試験を活用」だった。
ある委員が「C案がよい。資格検定試験であれば世界的に通用するし、コストも削減できる」と発言。別の委員が「大賛成だ」と応じた。文科省側はこれに「C案では検定料の開きも大きく、そのままの活用は難しいのではないか」と返答。検定料や実施地域といった一定の条件を求める案を出している。
ただ民間試験の活用自体に強い反対意見はなく、文科省は16年8月、「民間試験を積極的に活用する必要がある」とする議論の状況を公表した。
16年12月の第6回会議ではある委員が「地域によっては一部の試験しか使えない。公平とは言えない」と主張。だが文科省が具体的な打開策を示すこともなかった。
最終的に17年7月10日の第11回会議で、民間試験を活用する実施方針の案を了承。その3日後に文科省が正式に実施方針を決めた。
議事録が公表されたもう一つの会議は、関係者の意見交換の場として18年12月に設けられた「英語4技能評価ワーキンググループ」。大学教授や高校関係者、民間試験の実施団体の関係者ら22人が委員となった。
開催されたのは19年9月までで計6回。9月の第6回の会議ではある委員が「高校生に受けさせるには非常に疑問が残る」と指摘。文科省職員は「重く受け止め、対応したい」と応じたが、具体策は示さなかった。
国語と数学の記述式問題を巡っては検討・準備グループで具体的な方法が話し合われ、50万人規模の答案の採点をどうするかが焦点となった。
16年7月の第2回会議では採点期間を確保するため試験の時期を早める案について、高校側の複数の委員が「(学習指導要領通りに授業をしたら)絶対間に合わない時期にもってくるのはおかしい」「絶対無理」と強く反対した。
全体として採点のハードルの高さが伝わってくる発言が多く、「2~3年は批判があるかもしれないが、その間に改善していけばよい」と"見切り発車"を容認する意見も出された。
大学入試での英語民間試験の活用は、政治主導で進んでいった。議論が加速したのは2013年だ。
「使える英語力を高めるため、入試でのTOEFLなどの活用も飛躍的に拡大したい」。同年3月の産業競争力会議で、下村博文文部科学相(当時)は大学を核とした成長戦略を披露する中でこう述べた。同会議は同年6月、TOEFLなどの活用を盛り込んだ成長戦略をまとめている。
同年4月には自民党の教育再生実行本部が同様の内容を提言。続いて政府の教育再生実行会議が同年10月、大学入試センター試験に代わる新テストの導入と、英語民間試験の活用を提言した。
その後の議論は文科省の中央教育審議会や有識者会議に移っていく。高校関係者や有識者の公平性への懸念も表面化するが、解決しないまま17年7月に活用が決まった。
文科省内からは「政治が決めた目標をなんとか実現しようとしたが、無理があった」との声が漏れる。下村氏は18年4月の党会合で、東京大に民間試験を活用するよう文科省に指導を求める発言をしたことも認めている。
萩生田光一文科相は11月の参院文教科学委員会で、活用決定の経緯が不透明だと指摘され、「歴代文科大臣にはぜひその経緯は伺いたい」と述べている。文科省が公平性への懸念を解決しないまま実施へ突き進んだ背景に、政治の関与はなかったかが、今後の検証の焦点になる。