渋野日向子の魅力、アスリートの「キヨキヨ」さ
ゴルフジャーナリスト 地平達郎
もうすぐ幕を閉じる2019年は、ゴルフ界にとって後々まで語り継がれる歴史的な年になるかもしれない。
4月のマスターズ・トーナメントでタイガー・ウッズが14年ぶりに大会制覇。43歳の奇跡的な復活劇に世界中が沸いた。さらに、日本での米ツアー初開催となった10月のZOZOチャンピオンシップで米ツアー最多勝記録に並ぶ通算82勝目をあげた。
国内では、7月の日本プロ選手権で石川遼が3年ぶりにツアー優勝。その後も2勝を加え、こちらも完全カムバックを果たし、ウッズとともに、埼玉・霞ケ関カンツリー倶楽部で行われる東京五輪出場への夢が広がる。
そしてもう一人、ゴルフ界を超えて話題となったゴルファーが現れた。8月のAIG全英女子オープンで、日本人選手としては1977年の樋口久子の全米女子プロ選手権以来、42年ぶりにメジャータイトルを獲得した渋野日向子だ。
2度目の挑戦でプロテストに合格してたった1年での快挙。結局、国内4勝を合わせて年間5勝をマークし、国内ツアーで賞金ランク2位となる1億5261万円を獲得。昨年の出場1試合・賞金0円を考えると、まさに突如現れたヒロインで、英メディアが名付けた「スマイリングシンデレラ」そのものとなった。
記録だけをみても「すごい」のひと言であり、話題になるのもうなずける。だが、渋野にはそれ以外に、あるいはそれ以上に、人を引き付ける魅力があるように思う。
全英後、彼女が出場するトーナメントには大ギャラリーが詰めかけ、パニック状態に近くなった。そんな中でも、来てくれたお客さんに感謝の気持ちを表すのは笑顔がいちばんとばかりに、努めて笑顔で応えた。
5月のワールドレディース・サロンパス杯で初優勝したときには、こんなコメントを残している。
「これから先、何年ゴルフができるかわからないけれど、私もゴルフを引っ張っていきたいです」
とてもプロ1年目、20歳(当時)とは思えない言葉である。その気持ちが、いろんなところに出ている。
ウエアは、言葉は悪いがチャラチャラしたものではなく、最低限のおしゃれでとどめているように感じられる。
プレーもリズム感があり、テンポが速い。近年、プロ・アマチュアを問わずプレーの遅さが問題になっている。その原因の一つがプロゴルファーのスロープレーだ。テレビなどでこれを見ているアマゴルファーがまねをしてしまうそうだ。名手・名人はプレーが速いといわれるが、渋野のキビキビとしたプレーぶりはそれに通じるものがある。見ていて気持ちがいい。
と考えると、自身が意識してそうしているかどうかはわからないが、とかくプロゴルファーは賞金やファッションなどのことが話題になる中で、その前にスポーツ選手でありアスリートであるという、清々(すがすが)しさが渋野には感じられる。本人の言葉を借りるなら、アスリートの「キヨキヨ」(渋野は「清々」をキヨキヨとあえて表現する)さだ。
両親ともに陸上競技の投てき選手だったアスリートの心を間違いなく受け継いでいる。20年の目標を「東京五輪のことしか考えていない。金メダルをとりたい」と言い切る。
一度は夢見ただろうソフトボールで日の丸を胸に付けること。小さくなったボールで、自分の、そして両親の夢の実現を目指す。