東京五輪「金メダル30個」へ 日本のエースたち
7月24日に開会式を迎える東京五輪で、日本は史上最大の選手団を編成して臨むことになりそうだ。日本オリンピック委員会(JOC)が掲げた目標は金メダル30個。大きな期待を背負う日本のエースたちを紹介する。
■競泳:瀬戸大也 目指すは「キングオブスイマー」
五輪における日本のメダルラッシュに何度も貢献してきた競泳。2020年大会の主役候補が瀬戸大也(ANA)だ。良きライバルの萩野公介(ブリヂストン)がリオデジャネイロ五輪後に失速する中、先頭を走り続けてきた25歳は4年前に逃した金メダルのみを目指して猛進している。
昨年7月の世界選手権では200メートル、400メートルの個人メドレーで2冠達成。ただ一人、早々と五輪切符を手にすると気を緩めるどころか、さらに勢いづいた。11月の東京都オープンで200メートルの自己ベストを塗り替え、12月は短水路で争う国際水泳リーグで400メートルの世界記録を更新。「目の前のやるべきことを全力でやれば五輪も楽しめる」と持ち前の前向きさが一段と光る。
リオ五輪では400メートル個人メドレーで銅メダルにとどまり、悔いが残った。「あの時と違って今は自分と向き合って集中できている」と、他者ではなく己との戦いに重きをおいて成長してきた。私生活では結婚し、1児の父に。家族の支えも力に変えながら、「キングオブスイマー」の称号を取りにいく。
陸上:サニブラウン・ハキーム 大きなストライド武器に進化
「突然のお知らせになりますが、プロ選手になることを決意しました」。昨年11月、サニブラウン・ハキーム(米フロリダ大)は自身のツイッターでそう宣言した。「陸上を始めてから目標の一つでした」。男子100メートルで9秒97の日本記録を持つ20歳は、大きな決断を下して東京五輪に臨むことになる。
2017年に海を渡り、陸上大国の中でもまれてきた。昨年は全米大学選手権で日本新記録を刻んで3位。「米国のトップで戦えるような強さを身につければ、世界のトップでも同じパフォーマンスができる」。苦手なスタートに課題を残し、100メートルに絞った世界選手権では決勝進出を逃して消化不良に終わったが、大きなストライドで加速していく走りは改良を重ねて洗練されてきた。
プロ転向後も環境は変えず、フロリダ大でマイク・ホロウェイコーチの指導を受けるという。ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が打ち立てた100メートルと200メートルの世界記録の更新を将来的な目標に挙げるスプリンターは、高いレベルでの勝負を心待ちにしている。
■体操:村上茉愛 集大成へ、はじけるシリバス
体操女子の浮沈は、この23歳に懸かっているといっても過言ではない。前回の東京五輪での団体総合銅メダル以来56年ぶりの表彰台という目標達成へ、村上茉愛(日体ク)は巻き返しの道を着々と歩んでいる。
世界選手権で個人総合銀メダルを獲得した2018年の栄光から一転、五輪前年は苦悩の1年だった。代表選考会を兼ねた5月のNHK杯を腰痛のため涙の棄権。10月の世界選手権で日本は団体の五輪出場権こそ確保したが、予選11位で決勝に進めず。エースの穴を埋められなかったという事実が存在の大きさを物語る。
その才能が最も輝く種目は17年世界選手権金メダルの床運動だ。H難度の大技「シリバス(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)」など、抜群の脚力を生かしてダイナミックに躍動する。
五輪に向けて準備する床の音楽は「しなやかな曲から自分らしいポップな曲に変わっていく。つらい思いを乗り越えて、はじける演技ができるという思いを込めて」。失意の日々を力に変え、キャリアの集大成と位置づける大舞台を目指す。
■柔道:阿部詩 怪物を夢見て「一本」体現
2016年にシニアの国際大会にデビューした阿部詩(日体大、19)は、19年11月のグランドスラム(GS)大阪決勝で初黒星を喫するまで海外勢に無敗を誇った。17年のグランプリ・デュッセルドルフで国際柔道連盟(IJF)ツアーの史上最年少優勝を飾ると破竹の勢い。若き天才柔道家は18年世界選手権を18歳で制し、世界トップに躍り出た。
19年にはリオデジャネイロ五輪女王で最大のライバル、マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)に準決勝で一本勝ちして連覇。一瞬で担ぎ上げる袖釣り込み腰、切れ味鋭い内股と昔から注目を浴びた立ち技に加え、最近は寝技にも進境をのぞかせ「立って良し、寝て良し」の柔道には隙がなくなってきた。
男子66キロ級で17、18年世界選手権連覇の阿部一二三(日体大)は3歳年上の兄。ともに厳しい代表争いを勝ち上がれば、担ぎ技を軸に豪快な一本柔道を体現する存在として、2人は同日に日本武道館の畳に上がる。きょうだい優勝の快挙に向け「怪物と呼ばれたい」が口癖の19歳がどんな柔道を見せてくれるか。
■フェンシング:見延和靖 エペ王者、長いリーチで意表突く
フェンシングで全身が有効面となるエペは最も決闘に近いといわれる。本場欧州を中心に人気が高い種目で2019年の年間1位に上り詰めたのが見延和靖(32、ネクサス)だ。男子フルーレの太田雄貴(現日本協会会長)に代わる日本の「顔」として史上初の金メダルに挑む。
長身選手が多い舞台で、177センチの見延は身長よりも20センチ長いリーチを生かして世界と伍(ご)してきた。16年リオデジャネイロ五輪では6位入賞。意表を突いて相手のつま先を狙う「足突き」を得意とし、懐に飛び込む「フレッシュ」でもポイントを奪う。
昨年はワールドカップ(W杯)より格上のグラプリで2連勝して世界ランキング1位に立った。その後は重圧とケガに悩む時期もあったが、最近は「ふわふわした感じもなくなってきた」。コンディションを維持しながら「小さいところで変化を加えたい」と今後の闘いを見据える。
昨年、W杯で初優勝した団体でも五輪出場を狙う。「同じ方向を向かせる灯台のような役割ができれば」。スタイルが違う個性豊かなチームをまとめるリーダーの志は高い。
■ソフトボール:上野由岐子 不動のエース、円熟の投球術
金メダルに輝いた北京五輪から12年の時を経て再び熱投を披露するチャンスがやってきた。上野由岐子(37、ビックカメラ高崎)は今も変わらず日本ソフトボール界を背負う不動のエース。「金メダルを取るなら彼女の力がすごく大きい」。宇津木麗華監督からの信頼も厚い。
昨年は悪夢が襲った。打球が直撃して顎を骨折。復帰まで約4カ月を要した。リハビリの日々は精神的なつらさを伴うが、「今までの取り組みが本当に合っていたのか考えさせられた休養だった」。立ち止まったことをネガティブに捉えない姿勢はたくましく映る。
年齢を重ねてイメージ通り体が動かないこともあるという。「もっと投げ込みたいけど、そうできない理由が出てくる。心技体がそろうように、自分をコーディネートしないといけない」。若い頃のように練習しただけ技術が高まるわけではないが、そのぶん、積み重ねたキャリアが投球の幅を広げている。
代表合宿では後輩たちに助言する役目も担う。「後悔のないように準備するしかない。決めたらやるだけ」。宿敵米国に勝って頂点に立つことが最大の使命と心得ている。
■ラグビー:福岡堅樹 W杯4トライ、防御網切り裂く
ラグビー・ワールドカップ(W杯)で日本は史上初の8強を成し遂げた。その熱は東京五輪に向けても続いていきそうだ。4トライを挙げて日本代表をけん引した福岡堅樹(パナソニック)は舞台を15人制から7人制に移して競技生活の集大成を飾ろうとしている。
ひとたびボールが渡れば会場が沸き立つ。W杯では幾度となく強豪国の防御網を突破した。目を奪われるようなスピードはフェラーリに例えられたほど。7人制は15人制と別物といわれるが、50メートル走5秒8の快足を持つ27歳は戦力として十分計算できる存在だ。
東京五輪を最後に、医師の道を目指すことを公言している。本人にとっても最後の国際大会になるだろう。「世界で戦う自信をつけた。勝つためのマインドセットを共有して、セブンズでも『ONE TEAM』をつくり上げられたら」と決意は固い。
メンバー入りした4年前のリオデジャネイロ五輪ではニュージーランドを撃破するなど躍進して4位になったが、メダルにはあと一歩届かなかった。日本ラグビー界の将来のためにも、自国開催で忘れ物を取りに行く。