家族照らす愛の陽光 ストラスブール美術館展(美術評)
海辺に向かって開かれた窓からさしこむ夏の夕暮れの光が、室内を暖かな色に染め上げている。画家の家族である4人の女性は花束や果物を捧(ささ)げ持ち、あるいは祈りのしぐさで、平和な一日の終わりを静かに迎え入れている。目に見える世界の再現よりも人間の内面の精神を重んじ、神秘的、象徴的な表現を求めたナビ派の代表的な画家であるモーリス・ドニは、穏やかな日常への慈しみと感謝を、屋内を照らす陽光に重ね合わせた。それはまた、日々画家を支える彼女たちの内面を輝かせる、愛の光でもあるに違いない。
この作品は現在、姫路市立美術館において開催中の「ストラスブール美術館展」に並ぶ1点(1月26日まで。その後、豊橋市美術博物館、いわき市立美術館、福岡県立美術館に巡回)。フランス北東部、ドイツと国境を接するアルザス地方の中心地であるストラスブールの2つの美術館から油彩画を中心に110点余りの作品が選ばれ、「印象派からモダンアートへの眺望」という展覧会の副題が示すように、19世紀から20世紀にかけての多彩な絵画表現を見渡せる展示となっている。
モネ、シスレー、コロー、ゴーギャン、カンディンスキー、ピカソといったよく知られた画家たちの作品に加え、リズミカルな曲線と鮮明な色合いにより暖かみのある抽象表現を達成したジャン・アルプ、繊細な光の表現に詩情が漂う風景を描くロタール・フォン・ゼ―バッハらアルザスの画家たち、またルーマニア出身のヴィクトール・ブラウナーの呪術的世界との交感を示すような超現実的作品など、通常目にする機会のあまりない芸術家たちの作品も味わい深い。
(京都大学教授 高階絵里加)
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