韓国議長、元徴用工の基金法案を提出 成立は不透明
【ソウル=恩地洋介】韓国国会の文喜相(ムン・ヒサン)議長は18日、韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟の解決をめざす法案を提出した。日韓の企業と個人から寄付金を募り基金を創設し、賠償を肩代わりする内容が柱だ。ただ、原告や革新系の市民団体は反発を強めており、成立は見通せていない。
安倍晋三首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領は24日に中国の成都で1年3カ月ぶりに会談する予定だ。法案提出は、長引く日韓対立の根源である元徴用工問題の解決をめざす姿勢を見せ、関係改善につなげる狙いがある。
文議長が中心となって提出したのは「記憶・和解・未来財団法案」など2つの関連法案。基金を通じ、裁判所が認めた元徴用工や、韓国政府が認めた元軍人ら「強制動員被害者」に慰謝料を支給する。文議長は提案理由を「悪化の一途をたどる韓日関係が、過去を直視すると同時に未来を志向する関係になる契機となることを望む」と説明した。
法案には企業や個人の寄付を強要しない方針が盛り込まれた。慰謝料支給に関しては「債権者の意思に反しない第三者の任意弁済とみなす」と明記した。受給者は裁判による企業への請求権を放棄したとみなされ、係争中の訴訟は取り下げとなる。
基金を管理する財団の運営は韓国の政府と国会で構成する理事会が担う。原案段階では、元従軍慰安婦を支援する財団に日本政府が拠出した10億円の残金約6億円相当を移管する案を検討したが、元慰安婦関連団体が強く反発したため見送られた。基金や支給対象の規模は明示しなかった。
ただし、原告を支援する団体が反対しており、成立は不透明だ。原告側は法案が日本の責任を曖昧にしている点を問題視している。原告の弁護団は18日、法案提出を受けて「加害者の事実認定と被害者への謝罪が必要だ。『寄付金』という言葉は加害者の責任を免罪している」と反発する談話を出し、成立阻止をめざすと表明した。
法案提出に先立ち、韓国各地では革新系市民団体が反対集会を開いたり、国会議員に抗議のファクスを送信したりする活動を展開した。一部の団体は賛同議員の落選運動を推進するとも明らかにした。
法案には文議長のほか、13人の与野党議員が共同提出者として名を連ねたが、賛同者集めは法案提出直前まで難航した。与党内からは今後も、法案成立への慎重論が出る可能性が高い。仮に成立しても、慰謝料を受け取らない原告がいる限りは企業資産が売却される可能性が残るため、完全解決には至らないことになる。
韓国政府は今のところ、文議長の動きと一線を画す姿勢を示している。政府関係者によると、原告を説得する作業はしておらず、文大統領はなお「判決を尊重する」との立場を変えていない。2020年4月に総選挙を控えており、政権の支持基盤である革新勢力が反対する法案に関与する姿勢は見せられない事情もある。
日本政府は韓国国会の議論を注視している。18年10月の韓国大法院判決以来、日本が主張してきた国際法違反の是正を具体的に模索する初めての動きと言えるため、肯定的に評価する声がある。