絶好調の雇用統計、追加関税「耐性」強める
先週末、米雇用統計の発表があった。非農業部門の就業者数は26万6千人増、失業率は3.5%、平均時給は前年同期比3.1%増。
ほぼ完全雇用に近い状況でも、過去3カ月の平均で20万人超も雇用が増加している。賃金増加率が物価上昇率を上回る。経済成長率は年率2%前後だが、景気後退リスクは大幅に後退した。懐疑派でも雇用統計のあら探しするのは難しい。
これなら、米連邦準備理事会(FRB)が利下げを停止しても、利上げが考慮される経済状況ではない。無風の米連邦公開市場委員会(FOMC)が当面続くことも予想される。12月15日に予定どおり第4弾の対中追加関税が発動されても米国消費は耐えられそう。株価が下げても一時的との楽観論も浮上する。
たしかに、高雇用、賃金増、低インフレの組み合わせは、いわゆる「ゴルディロックス(適温)相場」を想起させる。
今週は、FOMC、英総選挙、米大統領の訴追問題、対中追加関税と難題が続くが、市場の懸念を「吹っ飛ばす=blowout」と表現されるほどのインパクトがあった。
あえて市場の懸念材料を挙げれば、トランプ米大統領が自信を深め、対中追加関税を強行する心理的余裕を与える可能性。さらに、FOMC内で利上げに積極的なタカ派が増えるシナリオか。
しかし、ヘッジファンドの間では「これで空売りしにくくなった」との声が多い。
石油輸出国機構(OPEC)減産幅も事前予測を上回り、原油価格が上昇したことも株価には追い風になっている。
債券市場ではイールドカーブ(利回り曲線)が立ち、不吉な「逆イールド」は解消されつつある。10年債利回りは1.83%前後に対して、2年債は1.61%前後と、「順イールド」に戻っている。
ドルの総合的な価値を示すドルインデックスは97台で推移しており、為替が特に暴れている状況ではない。
米国株の予想変動率を示すVIX指数(恐怖指数)も13台にとどまり最近では小動きだ。
唯一とも言える明確な懸念材料は、米国レポ(短期金融)市場で資金不足が続きニューヨーク連銀が連日、流動性供給オペを強いられていることだ。年末波乱を想定して、現金退蔵に走るファンドも見られる。
しかし、これとても、マーケットでは「FRBは否定するが、実質的には量的緩和(QE)と同じ緩和効果を与える」と見られ「軽量級のQE」ゆえ足元の株価には追い風ともみなされている。
そろそろトレーダーはポジションを整理してクリスマス休暇に備える時期ゆえ、積極的な仕掛けは出にくい。仮に荒れるとすれば、下値波乱より上値波乱のほうに市場の目は向いてきた。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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