阪大、「土に還る」IoTデバイス開発 災害で活用
大阪大学は5日、あらゆるモノがネットにつながるIoTデバイスとして微生物などの働きで分解されるものを開発したと発表した。開発品の大部分は「セルロースナノファイバー(CNF)」と呼ぶ木材などを原料とした繊維で構成し、土の中で総体積の95%以上が分解される。開発品は湿度の変化をセンシングできるデバイスだ。
大阪大学特別研究員DC1の春日貴章氏は開発したIoTデバイスについて「自然環境への負荷が小さい分解性IoTデバイスの第一歩になる。あらゆる場所から気軽に情報を収集して災害対策などに活用できる」と述べた。発表会場には開発品、ポリイミド製、ポリエチレンテレフタレート製のそれぞれのデバイスを展示。月日を経ると、開発品が分解される様子を確認できた。開発品は一部金属類を含むが、微量なので環境負荷が小さい。
IoTデバイスの構成は基板にCNF製ナノペーパー、コイルとコンデンサーに銀ナノインク、トランジスタと抵抗に金属部品などを採用した。開発品に搭載するコンデンサーはCNF製ナノペーパーと銀ナノインクを接着剤なしで積層して作成。一般的な樹脂製コンデンサーと同等以上の性能を発揮する。
「CNF製ナノペーパーは繊維が緻密なため、ペーパー上の孔(あな)が小さくて絶縁性がある。普通紙で実現できない高性能なコンデンサーを開発できた」(春日氏)。CNFを用いたコンデンサーは湿度に応じて静電容量が変化するため、その性質に着目して湿度センサーとして開発を進めた。
主な用途としては災害対策を挙げた。例えば山火事が発生した際にIoTデバイスを大量に配置すれば、湿度の測定でどのように火事が延焼するか予測できる可能性がある。湿度だけでなく「ガスや金属などに反応するセンサーにできれば、火山ガス発生時の避難経路の選定、地雷の発見などにも利用できる」(春日氏)とみている。
開発品は現状、電源とアンテナが存在しないため、すぐに活用できない。ただ大阪大学はCNFを利用した太陽光発電装置などの電源も開発しており、開発の進展で分解性IoTデバイスが広がっていくと期待できる。今後は分解性の制御なども調整できるようにする考えで、その一例として分解性樹脂でIoTデバイスを覆うことなどを挙げた。
CNFは木材などの植物繊維を化学的・機械的な処理でほぐした、直径が数~数十ナノメートル(ナノは10億分の1)の繊維だ。このCNFを利用すると、前述の透明なナノペーパー、軽量で高強度なCNF強化樹脂ができる。環境省は今秋開かれた東京モーターショーでCNF強化樹脂を活用したコンセプトカーを公開していた。
(日経 xTECH/日経コンピュータ 野々村洸)
[日経 xTECH 2019年12月5日掲載]